2016年09月16日 公開

糖質制限食はもはやブームではない

江部康二氏の講演に400人、名古屋・南生協病院

 糖質制限食は、「血糖値を上昇させるのは糖質だけ」というシンプルな事実をもとに、食事で摂取する糖質(炭水化物から食物繊維を引いたもの)をできるだけ減らして、血糖を良好にコントロールしようというもの。今では治療の一貫として、もしくは独自に食生活に取り入れ、糖尿病、メタボリックシンドロームといった生活習慣病の改善に取り組んでいる人も多い。「糖質制限食」という言葉が広まっておよそ10年。最初は流行のダイエット法のごとく捉えられてもいたが、数多に消えてはなくなるダイエット法と違い、治療食、健康食として確かな功績を残している。もはやブームではない。このたび、名古屋・総合病院南生協病院で、糖質制限のバイブルともいわれる書籍『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』(原著名「Dr. Bernstein's Diabetes Solution」、発行:メディカルトリビューン、販売:金芳堂)の出版記念講演会が9月4日に開かれ、本書の翻訳者である同病院の柴田寿彦名誉理事長、日本での「糖質制限」のパイオニアである高雄病院(京都市)の江部康二理事長が出席した。

糖質制限食は人類本来の食生活

 江部康二氏は高尾病院で院長の兄が1999年に導入していた糖質制限食を2001年から糖尿病患者に実践し、目覚ましい成果を上げたことから、その後は病院全体で研究を取り組んだ。その後2002年には自身が糖尿病は発症し、糖質制限食を自分自身で実践。それから足かけ15年間にわたり実践中。いわば糖質制限の生き証人と言える。

 「糖質制限は人類本来の食生活であり、健康食。変わった食事ではない」と江部氏は強調する。農耕が始まるまでは、木の実、魚介類、果物、野菜、動物の肉、昆虫類などが日常的な食事であり、糖質が少なく血糖の上昇が少なかった。農耕の始まりとともに穀物を摂取するようになり、虫歯も増えたという。糖質制限食は人類進化過程700万年の本来の食事であり「人類の健康食」と語った。

糖質が肥満の真犯人、脂肪は無実

糖質制限食の対象と適応外

*診断基準を満たす膵炎は対象とならない
*肝硬変も適応とならない
*長鎖脂肪酸代謝異常症も適応外
*糖尿病の経口薬を内服している人やインスリン注射を打っている人は低血糖発作予防のため糖質制限食開始前に必ず医師と相談すること
*腎機能eGFR60mL/分までは、日本腎臓病学会CKDガイド2013に従いOK
*腎不全は米国糖尿病学会2013年の声明を考慮し個別対応
*糖尿病・肥満・メタボ・生活習慣病などが対象
*糖尿病1型、2型を問わず、インスリンの減量が可能

(江部氏発表資料より)

 米国では脂質摂取率が減ったにもかかわらず、肥満が倍増し、糖尿病患者が増え続けた。この原因は「精製炭水化物の頻回過剰摂取。糖質の多い甘い清涼飲料水。糖質・脂質・蛋白質のうち食後に高血糖、血糖幅増大を生じるのは糖質のみである」という事実にあると江部氏は語る。糖尿病の真犯人はまさにそこにある。糖尿病の人は糖質を摂取した場合、血糖が異常な高値になる。例えば茶碗一杯(150g)のご飯を摂取した場合、血糖値を165mg/dL上昇させるが、和牛サーロインステーキ(脂身つき・200g)を食べても血糖は3mg/dLも上昇しない。肉・魚・卵・チーズ・豆腐・大豆製品などはタンパク質や脂質が主成分であり、糖質は少ない。「糖質制限食こそが、糖尿病・肥満などの生活習慣病には最適」と指摘するが、糖質制限食の対象にもいくつかの条件(上表)があるので、気をつけたい。

 注意したいのが「高血糖の記憶」と呼ばれる概念。江部氏は「一定期間血糖コントロール不良があれば、その後良好なコントロールが得られても血管合併症リスクが残る」という。「糖質制限食で血糖コントロール良好になっても、過去の高血糖の記憶がある糖尿人は油断禁物です」と話す。頸動脈エコー、心エコー、眼底検査などが定期的に必要という。また、糖質制限食で血糖値が良好になっても、続けなければ血糖コントロールはでなきないという点も勘違いしてはいけない。

もはやブームではない!健康食としての糖質制限食

糖質制限食10カ条~糖尿病や肥満が気になる人に~

●魚介・肉・卵・豆腐・チーズなどタンパク質や脂質が主な食品はしっかり食べる
●ご飯・パン・麺・イモおよび菓子・砂糖・ジュースなどの糖質の摂取は極力控える
●やむを得ず主食(糖質)を取るときは少量にとどめる
●飲料は牛乳・果汁は飲まず、成分未調整豆乳、水、番茶、麦茶、ほうじ茶はOK
●糖質含有量の少ない野菜・海藻・キノコ類は適量OK。果物は少量にとどめる
●オリーブオイルや魚油(EPA、DHA)は積極的に取り、リノール酸を減らす
●マヨネーズ(砂糖なしのもの)やバターもOK
●酒は蒸留酒(焼酎など)はOK、醸造酒(ビール、日本酒)は不可
●間食はチーズ類やナッツ類を中心に適量取る。菓子類、ドライフルーツは不可
●できる限り化学合成添加物の入っていない安全な食品を選ぶ                

 (江部氏発表資料より)

 江部氏が繰り返し強調していたのは「糖質制限食は人類本来の食事、人類の健康食」ということ。生活習慣病の予防と治療になるばかりでなく、風邪をひきにくくなるなどの免疫向上、食後の眠気がなくなるなどの能率向上、全身の血流・代謝が改善する自然治癒力向上などさまざまなメリットがあるという。

 ブームは3カ月で消えるというが、糖質制限食は2005年から広がり早10年。米国糖尿病学会も2013年に糖質制限食を受け入れた。東京大学医学部附属病院でも、2015年4月から糖質を40%に控える糖質制限食を提供しているという。江部氏は「糖尿病や肥満でなければ、スタンダード糖質制限食(朝と夕に主食を抜く)、プチ糖質制限食(夕だけ主食を抜く)といった自分に合った糖質制限を実践しつつ、動物性脂肪やタンパク質をしっかり食べて病気の予防に生かしてもらいたい」と話した。

 一般参加者からの質疑応答

Q 糖質制限食は実践しているが、野菜はどのようなものを取るべき? 肉や魚は高いのでおなかいっぱい食べるためには?
A 野菜はビタミンを補うために必要です。ホウレンソウなどの葉野菜、キノコ類、トマトなど積極的に取ってください。魚、肉は高いので安いときにまとめ買いするなどの工夫を。

Q 鍼灸(しんきゅう)などのツボ押しは効果がある?
A 残念ながらそういった研究結果はあまりなく、今の段階では難しいと思われます。

Q 運動はした方がいい?
A 運動はできる人はした方がいいでしょう。食後30分に運動をすれば血糖を下げるなど一定の効果が期待できますし、筋力の維持、骨粗鬆(しょう)症などの予防にもなります。活性酸素が発生するような過激な運動はお勧めできませんが、一定の効果はあります。

Q 1年近く糖質制限を続けているが、最近、しんどくなってきた。酒も飲まないので、糖質を「食べたい」欲求を抑える工夫は?
A あまり我慢せずに、商品として売り出されている糖質ゼロの麺、パン、パスタ、ケーキなど売っているものを使うのがいいと思います。

Q 糖質制限をしたが、おなかがすいて仕方がない。もっと食べたいときはどうすれば?
A 糖質制限+カロリー制限になっていると思われます。おなかいっぱい食べていいので、動物性タンパク質などは積極的に食べてください。予算はかかりますが、おなかいっぱい食べてください。

   糖質制限のバイブル『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』

 日本に「糖質制限食」という言葉を広げたものの一つに、米国で食事による血糖値の正常化による糖尿コントロールの方法を記した書籍『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』(原著名「Dr. Bernstein's Diabetes Solution」、発行:メディカルトリビューン、販売:金芳堂)がある。1997年に米国で刊行され、ベストセラーとなった本書は、著者のリチャード・K・バーンスタイン医師自身が重い1型糖尿病を12歳の時から患い、多くの合併症に苦しんだ経験を通して、自分自身を実験台としながら血糖値を正常化する方法を書いたものだ。彼は、自分以外の糖尿病患者を治療するために45歳にして医学校に入学して医師になり、より多くの人を救うために書物を記した。バースタイン医師は現在80歳を超え、筋肉隆々、ますますの元気ぶりであるという。本書は糖尿病患者のバイブルとして、現在までに改訂第4版が刊行。

書籍『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』

原著名「Dr.Bernstein's Diabetes Solution」

発行:メディカルトリビューン 販売:金芳堂
A5判、460ページ、定価5,800円+税 

全国書店で発売中

 

(あなたの健康百科編集部)