2017年04月04日 公開

双極性障害が正しく理解される社会へ【下】

芥川賞作家の絲山秋子さんが、講演で双極性障害体験を告白

 NTT東日本関東病院(東京都品川区)で行われた第3回世界双極性障害デーフォーラムin東京(日本うつ病学会主催)では、双極性障害の家族を持つ2人の方の生の声に続き、日本うつ病学会双極性障害委員会の加藤忠史委員長が再び登壇。双極性障害の研究の現状について講演を行った。その後、特別ゲストの芥川賞作家である絲山秋子さんが、自身の双極性障害との闘いの日々を語った。

DNAの機能障害が双極性障害の原因!?

 まず、双極性障害について研究している加藤委員長は「双極性障害は初診の段階ではうつ病と診断されることが多いが、うつ病と双極性障害では同じような症状なのに治療方針が異なります」と説明。双極性障害であるにもかかわらずうつ病の治療に使われる抗うつ剤を使用すると、「躁転(躁状態に転じること)して病状が不安定になることもあります」と述べた。

 それゆえ、双極性障害は早期の正しい診断が必要となるが、躁状態が軽いと判定が難しく、正しい診断に時間がかかることが多い。また、原因としてよく挙げられるストレスは、「悪化や再発のきっかけにはなっても、発症のリスクではありません」と加藤委員長は話す。近年、双極性障害が発症する環境因子としては、妊娠時の喫煙やインフルエンザ感染、出生時に父親が高齢であること―などが考えられているという。

 さらに、ここ数年、ゲノム研究や疫学的な研究により、双極性障害を引き起こす原因と考えられる遺伝子も発見された。マウスを使った研究では、細胞内に存在するミトコンドリアDNAが機能障害に陥り、異常なミトコンドリアDNAが脳の視床上部にある視床室傍核(しつぼうかく)というところに蓄積することで、躁・うつ状態を抑える機能が低下し双極性障害を引き起こすのではないかということまで分かってきたという。

 このように、双極性障害が心の病気ではなく、体=脳の病気であることは解明されたものの、まだまだ研究は道半ば。ゲノム研究の成果が出るには時間がかかる。しかも、双極性障害の患者の脳は10例未満しか保存されていないという。加藤委員長は「双極性障害の患者さんが亡くなった時に、大切に脳を保存するブレインバンク活動の推進が重要です」と強く訴えた。

双極性障害は完治できると芥川賞作家の絲山さん

 画家や音楽家など芸術家に双極性障害が多いとされているが、作家ではアーネスト・ヘミングウェイや夏目漱石も双極性障害だったと言われている。2005年に『沖で待つ』(文藝春秋刊)で芥川賞を受賞した絲山秋子さんが双極性障害を発症したのは、会社員時代の1998年7月のこと。最初はうつ病と診断され、その後、躁状態になり1カ月半後に双極性障害と診断された。99年8月に躁状態で自殺未遂を起こし、約7カ月の入院を余儀なくされる。

 その間、薬物治療を続けたが再発を繰り返した。自身で東京都内の精神科病院を探す過程で1人の医師と出会う。一生薬を飲み続けるものだと思っていた絲山さんは、「いずれ薬をゼロにしたいですね」と話す医師に感銘を受けたという。「症状が治まる寛解状態はあるけれど、完治した例はないですよね?」との問いかけに、その医師は「医学は進歩しています。完治の例がなければ作ればいい」と答えたそうだ。

 その言葉に勇気付けられた絲山さんは、薬のことを自分なりに勉強しながら、徐々に薬を減らしていった。自分で薬の"在庫管理"をしながら、主治医とも相談して薬の処方が調整されていった。「医師にできるのは薬を使って援護射撃をすることで、矢面に立つのは患者さん自身です」という主治医の言葉が記憶に残っているという。

 そして、2016年4月を最後に薬の処方はなくなり、今日まで薬は飲まず、再発もしていない。「発症から18年かかりましたが、主治医に『おめでとう』と言われました」と明るく話す絲山さん。「薬をやめたといっても思想を変えたわけではありません。必要になったらいつでも正しく使えます。風邪薬と同じで、治ったらやめるけれど、またかかったら飲めばいいだけのこと」と明言した。

 双極性障害の当事者はもちろん、家族も、きっと絲山さんの話に勇気づけられるだろう。この病気に対する研究と正しい理解が、さらに進むことが望まれる。

(萩原忠久)