2018年05月22日 10:50 公開

多発性硬化症の経産婦では長期経過が良好

進行リスクが低下するとのデータも

 女性に多く、20歳~40歳代にかけて好発する中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)。東京女子医科大学神経内科准教授の清水優子氏は、先ごろ、都内で、女性患者における妊娠・出産の可能性や課題について講演した。「出産経験のある患者は、ない患者に比べて病状が進行せず、長期予後が良好な可能性がある。また、再発がなく安定している患者では不妊治療も可能だ」と説明した。

妊娠・出産できる?

 MSは脳や脊髄、視神経などの中枢神経で広範に炎症が起こり、視力障害、運動・感覚障害、歩行障害などの多様な症状を呈する。患者の大半は、再発と寛解を繰り返し、長期にわたる治療を受けている。現時点で根治療法はなく、国の指定難病の1つとなっている。

 国内の患者数は約2万人と推定されており、右肩上がりで増えている。男女比で見ると、女性が男性の約3倍である。発症のピークは30歳代と比較的若く、働き盛りで、結婚や出産・育児といった重要なライフイベントと重なるため、社会生活に大きな支障を来すことが問題となる。

 清水氏は、女性患者の妊娠・出産というテーマに焦点を絞り、その可能性や注意すべき点について語った。

発症後に出産を経験した患者で、進行リスクが約4割低下

 ベルギーの研究者らが出産の有無とMSの進行について調査した報告を紹介し、「出産経験のあるMS患者の方が、出産経験のない患者に比べて病勢が進行しにくかった」と解説した。

 この研究では、女性MS患者330例を、①出産経験がない群(80例)②発症前に出産した群(170例)③発症後に出産した群(61例)④MS発症の前と後に出産した群(19例)の4群に分類。MSの総合障害度を評価する指標であるEDSS(Expanded Disability Status Scale)が6(杖歩行しかできない)に進行するリスクや、進行するまでの期間などを比較した。

 結果を見ると、③の発症後出産群は、①の出産経験なし群に比べて、EDSS 6に進行するリスクが0.61倍と低かった。出産経験なし群に対する全ての出産経験あり群(②+③+④)の進行リスクは0.66倍だった。

 また、EDSS 6に進行するまでの期間(平均値)は、①出産経験なし群が8.0年で最も短く、②発症前出産群は10.0年、③発症後出産群は21.0年、④発症前後出産群も21.0年だった(表)。これらの結果を踏まえ、清水氏は「出産経験があるMS患者の方が、長期の経過が良好となる可能性がある」と指摘した。

◆表.出産の有無とEDSS 6(杖歩行)までの進展

不妊治療も可能、ストレスには注意を

 一方で、出産後早期、特に産後3カ月間は、「育児によるストレスや疲労、環境の変化や出産後の免疫機能の変化が原因となり、MSが再発しやすくなる時期だ」と述べ、注意を促した。不妊治療がMSに及ぼす影響についても言及。「海外では、不妊治療がMSを悪化させるというデータもある。しかし、再発がなく寛解を維持し、症状が安定している患者では不妊治療は可能」と説明した。ただし、ストレスは再発リスクを高めるため、「家族と医療スタッフのサポートが非常に重要になる」と締めくくった。 

(あなたの健康百科編集部)