2018年10月30日 06:00 公開

「塀の中」の深刻な医療事情

 「刑を犯した者に手厚い医療が必要なのか」、「悪いことをした者をなぜ助けるのか」といった声は世間に根強くある。しかし受刑者の大半は有期刑であり、いずれ「塀の外」に戻ってくることを考えれば、刑務所医療の問題はわれわれ自身の社会的な課題でもある。

 ほとんど知られていない刑務所医療の実態について、「ファイザープログラム~心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援」シンポジウムの発表から紹介する。

入所前に処方されていた薬剤をもらえない

 刑務所医療の問題に関連して、とりわけ深刻なのは所内の医師(矯正医官)の不足である。その背景として、医師の待遇や職業的な魅力の問題などがある。

 一方、受刑者からは「医療を受けようとしても、刑務官の段階で拒否される」、「患者としての訴えを聞いてもらえない」といった声が聞かれる。

 NPO法人監獄人権センターによれば、「外部の専門機関での診察が認められないうちに食道がんが見つかり、既にリンパまで転移していた」、「白内障で外来の医師から手術を勧められているが、いつまでも認められない」といった訴えがあるという。

 また、入所前に処方されていた薬剤をもらえないという相談も多い。精神疾患の治療薬や、鎮痛薬の処方希望が、大半を占めるという。精神的ストレスが影響を及ぼす慢性的な痛みなどは、痛みを訴えても受け入れられない状況そのものが、痛みの増強につながりかねない。

 しかし処方薬が限定され、生活リズムが確保された刑務所内の環境は、薬物乱用などの傾向のある者を健康にする最適の環境でもある。医師が適切に介入し、啓発することで、多くの違法薬物使用者の再犯率低下にも寄与すると言われている。

地域医療機関との緊密な連携を

 刑務所における医療事情を改善するためには、所内でのすべての医療を、地域医療機関が担うといった制度改革が必要とされる。これによって医師不足が解消されるとともに、所外の医師の診療が受けられ、刑務所と地域の連携が構築しやすくなるなどのメリットがある。

 フランスや英国では、このような改革が行われた結果、医療に対する被拘禁者の不満は大幅に減ったとの報告がある。日本でも、法務省による刑務所医療の改革が行われている。保安体制からの刑務所医療の独立性を確保し、厚生労働省へ管轄を移すなどの行政面での対応が求められる。

※国内に4か所ある「医療刑務所」とは異なる

(あなたの健康百科編集部)