2018年11月06日 06:00 公開

快適な音環境で寿命が延長

 自動車や飛行機、建設工事などの大きな騒音から人の話し声・足音、掃除機や洗濯機の音、ドアの開け閉めなどの生活騒音まで、私たちの周囲には不快な音があふれている。その一方で、小川のせせらぎや野山を渡る風の音、鳥の鳴き声といった自然の音をはじめ、おいしそうな料理をつくる音、美しい音楽などにリラックス効果があることはよく知られている。

 こうした音環境が健康に与える影響ついて、国立精神・神経医療研究センター神経研究所と国際科学振興財団情報環境研究所の共同研究グループは、マウスに心地の良い自然環境音を聞かせながら飼育すると、平均寿命が最大で17%延長することを世界で初めて発見した。英国の科学誌「Scientific Reports」(電子版)に発表されたこの発見は、私たち人間にも恩恵を与えてくれることが期待されるという。

生育環境を改善するとポジティブな効果が

 動物園などで飼育されている動物の生活環境は、野生に比べて生活スペースが狭く、狩りや移動をしなくて済むため変化に乏しく単調で、人間の目にさらされるなどストレスの多い状態にある。これに対し、餌の種類や与え方を変えたり、オス・メス、成獣・幼獣の割合を自然の群れの構成に近づける、高いところに登れるような場所や泳ぐための水場をつくるなど、飼育動物の生育環境をより豊かで充実させる環境エンリッチメントと呼ばれる方法がある

 環境エンリッチメントで生育環境を豊かにすると、飼育動物の脳の発達が促されたり、不安に関連した行動が和らぐなど、生活する上でポジティブな効果があることが知られている。しかし、その効果が人間にも当てはまるかどうかはよく分かっていない。

 研究グループは、生き物を取り巻く環境の中でも「音」に注目。異なる音環境で長時間飼育することで、マウスの寿命に差が出るかについて実験した。

熱帯雨林の環境音を聞かせると寿命が延長

 今回の実験では、生後8週齢のマウス(オス・メス16匹ずつ)を①高周波の音を含む、熱帯雨林の環境音を聞かせて飼育する広帯域音響グループ②同じ環境音からマウス同士がコミュニケーションを取るときに使う高周波の音(人間の話し声に相当)を除いたものを聞かせて飼育する狭帯域音響グループ③通常の実験動物の飼育環境で飼育する(特別な音は聞かせない)グループ−の3つのグループに分けた。

 音響再生装置と赤外線カメラが一体化したスピーカーを設置した飼育用ケージを用意し、各グループとも1つのケージにオス・メス別に4匹ずつ分けて入れ、1,000日以上飼育して検討した。なお、自然な状態での寿命を調べるため、音を聞かせる・聞かせない以外にマウスにストレスや負担を与える採血などの検査は一切行わなかった。

 実験の結果、狭帯域音響グループのマウスは特別な音を聞かせなかったグループに比べて、平均寿命が約17%有意に延長していた。広帯域音響グループのマウスも、有意差は付かなかったものの平均寿命が約7%伸びていた。

 一番長生きしたマウスの寿命を比べると、3グループでほぼ同等だったのに対し、実験開始後にマウスが死に始めるタイミングは、特別な音を聞かせなかったグループよりも熱帯雨林の環境音を聞かせた2つのグループで遅かった。

 そこで研究グループは、それぞれの個体についてさらに詳しく調べてみた。すると、特に環境音を聞かせた2つのグループのオスでは、最短寿命が延びて寿命のばらつきは小さくなることが明らかになったという。

安全で快適な人間社会の実現に役立つ可能性も

 通常の飼育環境に自然の環境音を加えて音環境が豊かになると、マウスの自然寿命が延長することを明らかにしたのは、今回の研究が世界で初めて。研究グループは、環境エンリッチメントによるポジティブな効果を発揮する上で、音が重要な要素になっている可能性があると指摘している。そして、早死にや寿命のばらつきが小さくなる効果がオスで強く示されたのは、個体間の優劣関係がオスでより顕著に見られることと関連していると考えられるという。

 マウスの実験結果をそのまま人間に当てはめることはできないが、音環境を豊かにすることが社会的な緊張の緩和に役立ち、いじめや攻撃などによるストレスが軽減されることを解明できれば、人間が安全・安心に生活できる快適な社会の実現が可能になるかもしれないと展望している。

■参考リンク
市民ZOOネットワーク「動物たちの豊かな暮らし」
http://www.zoo-net.org/enrichment/outline/index.html

(あなたの健康百科編集部)