2019年01月23日 公開

血液検査により新生児の脳障害を防ぐ

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 出産時に新生児の脳に送られる酸素や血液が滞ると「新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)」という病態を引き起こす。HIEは死亡や重度の後遺症の原因になるため、直ちに治療しなければならない。国立精神・神経医療研究センターの伊藤雅之らの研究グループは、血液検査によりHIEを早期に発見できることを米国の医学誌Journal of Pediatrics2018年12月12日オンライン版)に報告した。

ポイント
・新生児の脳に送られる酸素や血液が滞ると、新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)を発症する
・HIEは死亡や後遺症の原因になるため、直ちに治療しなければならない
・血液検査で「LOX-1」を測定すると、速やかなHIEの診断・治療が可能になる

HIEは新生児の死亡や後遺症の原因になることも

 新生児は産まれてすぐに「母親の胎盤とさい帯(へその緒)を通じた酸素の供給」から「肺による自発呼吸」に切り替わる。しかし、その切り替えがうまくいかなかったり血液の循環に支障を生じると、脳への酸素供給がストップして仮死状態となり、HIEを発症する。

 HIEは新生児の脳障害の中で最も多い病気であり、発生率は約0.25%、日本では年間におよそ2,500件も発生している。HIEの3割は死亡したり重度の後遺症が残ると言われており、直ちに専門の医療施設に搬送して治療しなければならない。治療は発症後6時間以内の「低体温療法」が効果的とされている。

血液検査でLOX-1を調べることで、HIEの早期診断・治療が可能に

 伊藤氏らはラットの研究によって、HIEでは「LOX-1」という動脈硬化を促進するタンパク質が増えること、低体温療法を行うとLOX-1が減ること、LOX-1を中和する薬を投与すると低体温療法と同じような効果があることを明らかにしている。

 今回の研究では、国内の医療施設で生まれた72人の新生児(HIEの新生児27人と健康な新生児45人)の血液中のLOX-1の濃度とHIEとの関係を調べた。HIEの新生児では胎盤の早期剥離や緊急の帝王切開を行ったり、呼吸器や循環器のトラブル(胎児機能不全)を抱えている例が多かった。

 血液検査の結果、LOX-1の濃度が高いほどHIEの症状が重く、血中のLOX-1の値が550pg/mL以上の場合、9割以上の確率でHIEであることを診断できたため、簡便かつ速やかにHIEを診断し、高度な治療設備を有した専門医療施設に搬送が必要かどうかを判断できるようになった。また、LOX-1の濃度によって、治療後の経過(回復できるか、なんらかの障害が残ってしまうか)を高い確率で予測することができたため、退院後の診療・療育の早期対応のための新たな指標となることが期待される。

 今回の研究は患者の人数が少なく研究期間も短かったことから、研究グループはさらに多くの患者を集めて検討を行い、実際の新生児医療現場への導入に向けて研究を進める予定だという。

(あなたの健康百科編集部)