2019年02月01日 公開

ショッピングしながら健康になれる?

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 買い物は楽しい。そして、実は健康にもいい。ウインドーショッピングでワクワクしたり、良い買い物ができれば気分が弾み、幸せホルモンとも呼ばれるドパミンの分泌が増えて精神的なストレスが軽くなる。また、あれこれ比べたり予算内に収まるか計算したりすることは頭の体操になり、徒歩で出かけたりお目当ての品を探し歩いたりすれば運動にもなる。特に、高齢者では買い物が身体・認知機能に良い影響を与えることが分かっており、高齢化が進む日本ではその効果が注目されている。しかし、健康になることを目的にショッピングモールに出かけたり、買い物中に健康を強く意識する人は少ないだろう。それでは、商業施設の空間デザインに運動したくなるような工夫を加えたら、訪れた人の健康意識は変わるだろうか。千葉大学予防医学センターが竹中工務店、イオンモールと協力して行ったユニークなプロジェクト研究の結果が報告された。

医療費の削減、健康寿命の延伸には「予防」が重要

 日本人の平均寿命は男女とも80歳を超え、人生100年時代といわれるほどだ。長寿社会を迎え一般市民の健康意識が高まる一方で、増え続ける医療費や健康格差の拡大などの多くの問題は解決されていない。それらの対策として最近注目されているのが、医療や健康に関する正しい知識を身に付けることで病気を防ぐ「予防医療」や、健康と病気の間のグレーゾーンを知ることで健康への意識を高める「未病」などの「ゼロ次予防」という考え方だ。

病気につながる社会経済的、環境的、行動的要因を予防すること

 しかし、正しい医療知識の習得や運動が健康に良いと頭では分かっていても、いざ実行に移そうと思うとなかなか難しい。成人の7割が運動不足で、そのうち7割は運動する気もなければ健康に関する情報を収集する気もないという報告があるように、社会全体で「ゼロ次予防」を目指す場合、健康への関心が薄い人たちにどのように働きかけるかが鍵となる。

 そこでこのプロジェクトでは、ショッピングモールの空間デザインに工夫を凝らすことで、訪れる人たちの健康意識を高め、健康の維持・増進のための行動に結び付けられるかを検討した。

「健康への気付き」を促す3つの仕かけを用意

 今回、イオンモール宮崎に用意された「健康への気付き」を促す仕かけは、次の3つ(写真)。

①ステップウォーキング:床面に年代別、身長別の歩幅ラインを描き、利用者が自分の歩幅と比べながら歩くことで、楽しみながら健康への気付きが得られる仕かけ

②クライムウォーキング:屋内階段の昇降時に効果音や童謡を流し、懐かしい記憶や想像力を呼び起こさせることで階段を利用したくなる(身体活動が増加する)ようなプログラムを盛り込んだ仕かけ

③バランスウォーキング:歩行年齢が測定できるウォーキングコースを設置し、利用者が歩行速度・姿勢・バランスなどの歩行状態を知ることで、健康への気付きにつながる仕かけ

写真.「健康への気付き」を促す空間デザイン・プログラム

(千葉大学ニュースリリースより)

無関心な人が体や健康について意識を向けるきっかけに

 プログラムの効果を検証するため、2018年の5月と9月に5日間にわたってアンケートを行い、利用者の数、プログラムが体や健康について意識を向けることにつながったか、プログラムの利用が施設を来れる理由になっているかなどを調査した。

 その結果、利用者は5月の調査時点ではステップが160人、クライムが126人、バランスが166人で計452人だったのに対し、9月の調査ではそれぞれ217人(57人増)、202人(76人増)、140人(26人減)で計559人(107人増)と、バランス以外は増えていた。

 「プログラムを通じて、自分の体や健康について意識を向けるきっかけになった」と答えた人の割合は、全体では5月の91%に対し9月には94%と増加。注目されるのは、健康に関心がないという人では70%から83%へと約1.2倍に増えていた点。この結果から、プログラムは健康への関心が薄い人たちにも良い影響を与えていることが分かった。

 「プログラムが来訪目的の1つになっている」と答えた人の割合は、全体では5月の42%に比べ9月には35%とやや低下していたものの、クライムの回答者では42%から63%と1.5倍に増えていた。プログラムを複数回利用した人の割合については、全体で「2回以上」が5月の14%から9月には22%へ、クライムでは「10回以上」が15%から50%へと著しく増えており、利用者数と同様リピート率にもプログラムごとの差が見られた。

効果の検証を重ね、健康長寿社会の実現を

 これらの結果から、プロジェクトチームは「このプロジェクトは健康に関心がある人だけでなく、無関心な人でも体や健康に意識を向けるきっかけになっていた。また、プログラムが来訪目的の1つになっていることも分かった。商業施設におけるゼロ次予防の視点を生かした空間プログラムの設置は、来訪者に日常生活の中で健康への気付きを促すことが確認できた」と評価している。

 その一方で、「健康に意識を向けるきっかけにならなかった」と答えた人の60%が「プログラムがよく分からなかった」と指摘している点や、リピート率にばらつきがあった点を踏まえ、「効果の検証を重ね、利用者の年代にあったプログラムの配置や見直しを行うことで、さらなる利用促進につながると考えられる。また、利用法の案内や結果のフィードバック方法にも改善を加え、健康長寿社会の実現に貢献したい」と述べている。

 ショッピングモールでの買い物のついでに楽しみながら健康増進ができれば一石二鳥だが、くれぐれも買い過ぎにはご注意を。

(あなたの健康百科編集部)