2019年02月15日 公開

「依存症」は誤解されている

専門医・松本俊彦氏に聞く

 アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症については、「本人の意志の弱さ」や「性格の問題」などと誤解されがちだ。依存症は意志や性格の問題ではなく、医学的に認められた精神疾患である。ところが、実際には「病気」と見なされることはほとんどなく、偏見や差別の対象になっている。かねてから「『依存症=病気』の側面にもっと目を向けるべき」と主張してきた、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦氏に、依存症を取り巻く問題や、依存症者に対する偏見や差別の解消に向けた対策を聞いた。

依存症者本人や家族さえも誤解している

---- 依存症に対する偏見や差別には、どのようなものがあるのでしょう。

松本氏 アルコールであれ、薬物であれ、ギャンブルであれ、依存症と聞くと、多くの人は「本人の意思が弱い」「節制ができない性格だ」などと、その人間性を批判する傾向があります。中には、「道徳心がない」と言う人もいます。私の専門分野である薬物依存症では、薬物使用そのものが犯罪行為であるため、「犯罪者」という側面だけで見られてしまいがちです。こうした誤った認識によって、依存症を抱える人たちは社会的に居場所がなくなり、結果的に孤立して、ますます薬物を使う生活から抜け出せなくなってしまうのです。しかし、実は薬物やアルコールなどの依存症も、うつ病や統合失調症などと同様の精神疾患です。これらの精神疾患は、精神保健福祉法に基づく「精神障害者」の対象でもあります。にもかかわらず、例えば依存症の当事者が運営する民間回復支援団体「ダルク」が新たな施設を作ろうとすると、地域住民からの猛反対にあうことがまれならずあるのです。障害者差別解消法に依拠すれば、ダルクが施設を作る際に地域住民の許可を得る必要はありません。仮にダルクと住民の間でトラブルが起きた場合には、地方行政が間に入って対応に当たることになっていますが、残念ながら、私が知る限りでは、自治体が積極的にそのような動きをとることはほとんどありません。こうした偏見や差別によって、依存症を抱えた人たちの回復が妨げられてしまっていることが問題なのです。

---- 周囲の人たちが偏見や差別が持っているのですね。

松本氏 それだけとは限りません。薬物依存症では、「ダメ。ゼッタイ。」や「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」といった標語による薬物乱用防止教育が成功しているせいか、日本は海外に比べて薬物使用者の割合は非常に低い状況にあります。一方で、そのことにより薬物使用者本人は「自分がだらしないせいだ」、家族も「自分の育て方が間違っていたのではないか」とか「妻として自分が至らなかったから」などと自責してしまうのです。そうなると、精神保健福祉センターに相談したり、医療機関を受診したりという発想からは遠のいてしまいます。つまり、社会一般の多くの人たちだけでなく、依存症者自身や家族まで依存症を誤解しているケースが多く、それが一番の問題だと思います。

精神保健福祉センターの活用を

---- 偏見や差別は、無知や無関心が原因だと思いますが、正しい知識を得るにはどこにアクセスすれば良いでしょうか。また、差別や偏見を実際に受けたときの対応についても教えてください。

松本氏 インターネット上にはたくさんの情報がありますが、依存症に関しては、各都道府県ならびに政令指定都市に少なくとも1カ所は設置されている精神保健福祉センターなどの公的機関が発信する情報は正しく、信頼できるものです。
 医療機関の受診については、せっかく勇気を出して行っても、治療を拒まれたり、警察に通報されたりするケースがあることも事実です。まずは、依存症の専門医療機関や専門医を受診することをお勧めします。それが分からない場合、精神保健福祉センターに相談すれば、地域で依存症に対応してくれる医療機関を紹介してくれるでしょう。精神保健福祉センターは、厚労省から依存症の相談窓口を任されているので、困っている方やご家族がいたら、その機関に関する情報を教えてあげてほしいと思います。

イベント情報
厚労省では、依存症への偏見や差別をなくし、依存症者や家族に対する適切な治療や支援につながる行動を促そうと、イベントを通した普及啓発事業を実施する。今回の取材に応じていただいた松本俊彦氏も出演するイベントは下記の通り。

誤解だらけの"依存症" in 愛知
日時:2019年2月17日(日)13:00〜/15:30〜 ※入場無料
会場:プライムツリー赤池プライムホール
出演者:依存症理解啓発サポーター 前園真聖(元サッカー日本代表)
濱口優(お笑いコンビ「よゐこ」)
森重樹一(ロックバンド「ZIGGY」Vo.)
せやろがいおじさん(お笑い芸人)
松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)
田中紀子(公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会)

誤解だらけの"依存症" in 大阪
日時:2019年2月23日(土)14:00〜/16:00〜 ※入場無料
会場:三井アウトレットパーク大阪鶴見イベントスペース
出演者:依存症理解啓発サポーター 前園真聖(元サッカー日本代表)
濱口優(お笑いコンビ「よゐこ」)
森重樹一(ロックバンド「ZIGGY」Vo.)
松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)
田中紀子(公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会)

誤解だらけの"依存症" in 東京
日程:2019年3月6日(水)17:00〜 ※事前申込制、入場無料
会場:時事通信ホール
出演者:依存症理解啓発サポーター 前園真聖(元サッカー日本代表)
大森靖子(超歌手)
松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)

詳細は下記の特設サイトまたはTwitterを参照。
・「特設サイト
・「依存症なび

 (あなたの健康百科編集部)