2019年03月08日 公開

依存症者への批判はNG、でも"尻ぬぐい"も厳禁

厚労省イベントに清原和博氏もサプライズ登場

 アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症に対する差別や偏見をなくしてもらおうと、厚生労働省(厚労省)は「誤解だらけの"依存症"」と題する啓発イベントを開催した(関連記事)。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦氏や、元サッカー日本代表の前園真聖氏、超歌手の大森靖子氏がトークイベントに登壇。松本氏は、依存症が本人の意志や性格の問題ではないことを改めて説明し、依存症者への批判が回復の妨げになることを強調、一方で依存症者がギャンブルで作った借金などを肩代わりするような"尻ぬぐい"がかえって依存症を増長させてしまう可能性を指摘した。イベント終了間際には、元プロ野球選手の清原和博氏がサプライズゲストとして登場し、松本氏とのトークセッションを行った。

完治はせずとも回復は可能

 トークイベントでは、アルコールや薬物、ギャンブルの各依存症について、松本氏がレクチャーを行った。いずれの依存症にも共通するのは、世間一般が持つ偏見と差別意識が根強く残っていること。そんな意識を当事者本人も持っており、家族や周囲の人たちは自分を責めたりしてしまいがちという。これが、精神保健福祉センターや保健所への相談や、専門の医療機関での治療に結びつかない点も、依存症の共通点だ。

 差別や偏見について語るとき、松本氏が例に挙げるのは、米国の元大統領ジョージ・W.ブッシュ氏がかつてアルコール依存症を克服した逸話だ。「米国では依存症から回復すればヒーロー扱いされ、大統領になることすらできる。では、日本はどうでしょうか」と、松本氏は疑問を投げかける。

 依存症は本人の性格や意志の問題ではなく病気であるという正しい知識を1人でも多くの人が持つことで、当事者が少しでも早く専門の医療機関で適切な治療が受けられ、自助グループなどで仲間とともに努力を続ける筋道がつけられる。「完治は難しいかもしれないが、依存症から回復し、われわれ一般の人と同じような人生を送ることは可能。失ったものの多くを取り戻すことはできる」と松本氏は繰り返した。

前園氏、清原氏らも実体験を語る

 前園氏は、自身がかつて起こしたタクシー運転手への傷害事件をきっかけに、アルコール摂取を一切やめたという。現在、依存症理解啓発サポーターを務めており、今回のイベント開催前にはアルコールや薬物、ギャンブルそれぞれの依存症から立ち直ろうとする自助グループを訪問した。

 アルコールの場合、「日常的にお酒を飲まれていると、自分は依存症ではないという気持ちになるように感じました。1人になるとお酒に手を出してしまったりするので、自助グループのメンバーと会話をすることで、今日も一日頑張ろうという気持ちになれると皆さん、仰っていました」と、孤独や孤立しないための手段として、自助グループの存在の意義を指摘した。

 松本氏は常々、依存症者への批判は無意味であり、本人の回復の妨げになることを説いてきた。一方で、依存症者がギャンブルで作った借金を肩代わりしたり、泥酔して吐いたりした後片付けをしてしまうような「尻拭い」は、かえって依存症を悪化させる原因になりかねないと懸念した。それを聞いた大森氏は、自分は全く飲酒をしないと断った上で、飲酒習慣のある夫とのエピソードとして、酔った姿を映像に残したら、それを見て3日くらいは「断酒」していたと明かした。

 最後に、サプライズゲストとして元プロ野球選手の清原氏が登壇。同氏は、2016年2月に覚せい剤取締法違反(所持)の容疑で逮捕され、その後は公の場に姿を現すことはなかなかなかった。

 松本氏 今回、厚労省のこの依存症啓発イベントに出演オファーがきたわけですが、驚かれたのでは?

 清原氏 正直、自分は逮捕されて3年になるのですが、こつこつと治療してきて、それが厚労省に認めてもらえたのかなと思うと、すごくうれしい気持ちでした。

 松本氏 (出演を)少し迷ったり、躊躇したりする気持ちはなかったか。

 清原氏 いえ、少しでも自分のように苦しんでいる人のためになればと思い、すぐに自分で決めました。

 松本氏 治療を受けるには勇気が要ると思いますが、治療を受けようと思った経緯は?

 清原氏 やはり大きな1つのきっかけというのが逮捕されたこと。自分が立ち直っていく上で、どういうことをすればいいのかと考えた中で、薬物の専門の病院に通おうと決めて、弁護士さんに相談して病院を探していただきました。

 松本氏 つらい時期とかはありましたか。

 清原氏 約2週間に1回病院に通って、いろいろなテキストで、薬物について勉強したりすることによって、どんどんどんどん「自分はこうだったんだ、ああだったんだ」と理解できていったので、すごく良かったと思います。

 松本氏 今現在も、薬物に悩んでいて「このままではいけないな」と思いながらも行動を起こせない方もいるのではないかと思う。悩んでいる方へメッセージをいただけますか。

 清原氏 はい。自分の体験なのですが、薬物は一時的にやめられても、やめ続けることは自分自身だけでは非常に難しいことだと思います。勇気を出して、専門の病院にいってほしいなと思います。

 松本氏 ご本人を支えている家族ら周囲の人へのメッセージはありますか。

 清原氏 自分はいろいろな人に支援していただいて、支えられています。先ほど、松本先生がおっしゃったように、自分の身近な人に、正直にものを言えることが自分は一番変わったことだと思いますし、薬物を使っていた時は薬物を使うためにうそをつき、自分をどんどん追い詰めていってしまい、ほとんど苦しみの日々でした。それが近くにいる人の理解があれば、今、自分は苦しいんだ、つらいんだと言える環境があることが、一番大きいことだと思います。

 なお、本人の登場はなかったが、お笑い芸人・榎森耕助氏が演じるキャラクターとして人気の「せやろがいおじさん」による、「依存症を誤解していませんか?」というタイトルの動画が会場で流された。イベントの要点をまとめた、インパクトのある動画は、松本氏からもお墨付きだ。

 厚労省では、今後も依存症に対する差別や偏見を解き、正しい知識を広める啓発事業を進める予定だ。

(あなたの健康百科編集部)