2019年04月04日 公開

アルツハイマー病治療薬の最有力候補が開発中止に

 実用化間近と期待されていた認知症治療薬アデュカヌマブの臨床試験中止が、2019年3月下旬に発表され、関係者に衝撃が広がっている。同薬は3段階のステップを踏んで有効性や安全性を検証する、最終段階の試験(第Ⅲ相試験)を進めていた。近年、製薬企業による開発中止が相次いだことに加え、最有力候補の頓挫によって、認知症治療薬の未来には暗雲が立ち込めている。

 2025年には700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占めると見込まれる認知症。現在の薬物治療は進行を遅らせるのみで、根本的な治療薬はない。
 特に、認知症の中で最も患者数の多いアルツハイマー病の薬については、世界中の製薬企業が根本的治療薬の実用化を目指し、しのぎを削っている状況だ。しかし、残念ながら有効性が証明された薬はまだ現れていない。

 アルツハイマー病患者の脳内には、"アミロイドβ"という物質や"タウたんぱく"という物質がたまり、それらが神経細胞を破壊し、脳細胞が萎縮すると考えられている。そこで、アミロイドβやタウを除去すれば根治につながるのではないかとの仮説に基づき、製薬企業がこぞって開発を進めたのがアミロイドβを標的とした「抗アミロイドβ抗体」だ。

 現在の開発の主流は、この抗アミロイドβ抗体と、アミロイドβを産生する酵素(BACE)の働きを抑え、アミロイドβの産生を阻害する「BACE阻害薬」である。

開発の難しさが浮き彫りに

 アデュカヌマブは、エーザイと米国の製薬企業バイオジェンが共同で開発を進めていた化合物。抗アミロイドβ抗体で、アミロイドβの中でも毒性が高いとされるアミロイドβ凝集体を標的とする化合物だ。これを取り除くことで、認知症を抑える効果が期待されていた。

 アデュカヌマブが世界的に一躍注目を浴びたのは、2015年3月に開かれた国際アルツハイマー・パーキンソン病会議。そこで発表されたフェーズ1b試験の中間解析で、優れた臨床成績が示されたのである。脳内に蓄積したアミロイドβの量を低下させる効果に加えて、アミロイドβの低下と認知機能の改善が関係していることを初めて明らかにしたという。

 従来、抗アミロイドβ抗体の臨床試験では、ある程度症状の進んだ患者を対象に有効性や安全性を検討していたが、有効性を示すことができなかった。その理由の1つとして、早期の治療介入で脳の器質的変化を抑えないと、有効性が得られないのではないかと指摘されてきた。そこでアデュカヌマブは、投与対象者を従来の試験よりステージの早い"軽度のアルツハイマー病患者"としていたのだ。

 しかし、同薬の2つの第Ⅲ相試験では、認知機能・臨床症状の低下抑制効果を偽薬(プラセボ)と比較した結果、「主要評価項目が達成される可能性が低い」との結論に至った。

切望される根本的治療薬の登場

 根治を目指したアルツハイマー病治療薬の開発は苦難の連続であり、現時点では明るい展望が描けそうにない。

 その歴史を振り返ってみると、2012年に抗アミロイドβ抗体「バピネオズマブ」(米ファイザー)が第Ⅲ相試験で主要評価項目を達成することができず、開発を断念。16年には軽度のアルツハイマー病患者を対象に開発を進めていた「ソラネズマブ」(米イーライリリー)が承認申請を取りやめた。

 その後も、軽度・中等度のアルツハイマー病および健忘型軽度認知障害(プロドローマルAD)を対象としたBACE阻害薬「ベルベセスタット」(米メルク)が、それぞれ第Ⅱ/Ⅲ相試験、第Ⅲ相試験を中止したのに続き、軽度・中等度に対するBACE阻害薬「ラナベセスタット」(米イーライリリー/英アストラゼネカ)が第Ⅲ相試験の中止を発表しており、開発の難しさが浮き彫りになった。

 これまで開発の中心にあった抗アミロイドβ抗体とBACE阻害薬の繰り返される開発中止は、何を意味するのか。「アミロイドβ仮説」そのものも揺らぐことはないのか。

 とはいえ、増え続ける認知症患者に対する対策は喫緊の課題であり、根本治療薬の登場が待たれるところだ。これまでの開発や研究の蓄積から教訓を得て、前に進むしかないのかもしれない。

(あなたの健康百科編集部)