2019年04月15日 公開

バッティングの極意は"準備動作にあり"?

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 来年(2020年)開催される東京オリンピックで、3大会ぶりに正式競技として復帰する女子ソフトボール。2008年の北京大会ではエース上野由岐子投手を擁し、決勝戦で強豪米国を破って悲願の金メダルを獲得した興奮を覚えている人も多いだろう。120km/hを超える上野投手の豪速球が打者の手元に届くまでの時間は、わずか0.4秒弱。その一瞬でボールを確実に捉えるため、迎え撃つ打者たちはどのような準備をしているのか。打撃フォームではなく、打撃のための準備動作に着目した名古屋大学の研究グループの研究結果が医学誌PLOS ONE2019; 14: e0212997)に発表された。

投手に比べ打者の動作は制限が少ない

 ソフトボールの打者は、投手がボールを投げてから0.5秒以下という短時間でボールが「いつ」「どこ」に到達するかを予測し、打ち返さなければならない。長くて重いバット(国際試合の規定では86.36cm以内、1.08kg以内)を振るには全身を使う必要があり、投手は直球と変化球、緩急を使い分けてくるため、素早く正確に判断しボールを打ち返すには、バッターボックスでの準備動作が重要となる。

 またソフトボールでは、投手は①体の前か横でボールを持ち、体を一定時間完全に静止する②投球動作を途中でやめない③投げ方は下手投げのみ④投球時に必ずプレートを踏む−などの細かいルールが課せられている。これに対し、打者は①球審がプレイを宣告後、10秒以内に打撃姿勢を取る②打撃時にバッターボックスから足を踏み出さない−という大きく2つのルールしかないため、一本足打法、振り子打法、バスター打法のように、さまざまな動作ができる。

 研究グループは「良い準備ができなければ良い成績は残せないので、好打者ほど準備動作もうまいのではないか。日々切磋琢磨しているスポーツ選手の準備動作を知ることは、一般人が素早く正確な判断を下す際の行動を探る、格好の材料になるのではないか」と考えた。そこで、高校・大学・実業団の女子ソフトボール選手を対象に、試合中の打撃時における準備動作を分析、検討した。

ステップ動作に注目して選手を分類

 研究グループはまず、打者が行う準備動作の中でも脚のステップに注目。投手がボールを投げるリリース時を基準として、打者が投手に近い踏み込み脚を地面から上げる時間(始動時間)〜着地の時間の長さ(ステップ時間)ごとに選手を分類した。

 すると、高校生では準備動作を速く開始し、長めのステップ動作をする選手が比較的多く、実業団では大学生に比べて始動が早い選手が多く、かつ多様な準備動作を行う選手がいることが分かった

 次に、始動時間とステップ時間の特徴から、打者を①投手のリリース前に大きく脚を上げ、ゆっくり着地する早期始動長期継続型(ELタイプ)②リリース時には既に上げた脚が着地し、ノーステップ打法に近い早期始動早期完了型(ESタイプ)③リリース直前に脚を上げ、短いステップ動作を行う直前始動型(LSタイプ)−の3タイプに分類(図1)。分析の結果、3タイプの選手の割合は、高校生・大学生・実業団のカテゴリーで全く異なっており、大学生では高校生よりもLSタイプが多く、ELタイプは少なかった。また、実業団では大学生よりもELタイプとESタイプが多く、LSタイプは少なかった(図2)。

図1. 始動時間とステップ時間で分けた打者のタイプ

図2. タイプ別に見た選手の割合

(図1、2とも名古屋大学リリースを基に作成)

一瞬の勝負の鍵を握るのは周到な準備

 研究グループは、こうしたカテゴリーごとの違いは競技環境によるものと考察。投手の球速(高校生<大学生<実業団)と使用球の材質(高校生:ゴムボール、大学生・実業団:革ボール)の相違が制約となり、各選手がそれぞれの環境に適応した結果として差が生まれたという。

 つまり、①高校生は投手の球速が最も遅く、反発力が低いゴムボールを使うため、長打を狙う場合はELタイプ、単打を狙う場合はLSタイプの準備動作を行っている②大学生では球速は高校生と変わらないものの、飛距離が出る革ボールを使用しているため、大きな動作が打撃の確実性を低下させる(速球に差し込まれる、変化球への対応が遅れる)ELタイプの割合が減少した③実業団は投手の球速が最も速い。そのため、ELタイプの打者は大きな準備動作で長打力をさらに伸ばそうと努め、ES・LSタイプの打者は小さな動きでより確実性の高い打撃を試みる結果、3タイプの準備動作が全て見られた−と考えられるのだ。

 打者の究極の目的はアウトにならないことだが、状況に応じ確実性を犠牲にしても大きな動作で長打を狙ったり、ステップ幅を短くして逆方向に打ち返したり、投手のリリース直前に動作を開始しギリギリまでボールを見極めたりとさまざまな準備動作が選択できる。  研究者は「わずか一瞬で成否が決まる打撃を成功させるために、選手たちは準備段階から "長打/単打を打つ"という目的を最も確実に達成できる動作を行っている」と指摘。「これは、瞬時に正確な判断を下すには、どのような準備をするかが大事であることを示唆している。今回の研究は、スポーツという題材を基に、周到な準備の重要性を示した点で意義深い」とまとめている

(あなたの健康百科編集部)