2019年04月23日 公開

寄生虫がいるとなぜ痩せる?

 ソプラノ歌手の故マリア・カラスは、自分の腸管にサナダムシを寄生させて、1年間で約50kgの減量に成功したという伝説を持つ。肥満症は美容上の問題であるだけでなく、糖尿病、心臓病、脳卒中などのリスクを高めることから、治療法の開発は喫緊の課題だ。群馬大学大学院生体防御学分野の下川周子氏と国立感染症研究所寄生動物部部長の久枝一氏らの共同研究グループは、寄生虫感染による体重減少の謎を初めて解明し、Infect Immun (2019年4月8日オンライン版)に報告した。

食べる量が同じなのにマウスの体重が減少

 下川氏らが解明したのは、高脂肪食を1カ月間与えて太らせた肥満マウスでの実験だ。 肥満マウスの腸管に寄生虫を感染させた寄生虫マウスと感染させなかった非感染マウスに分けて、体重の変化を見た。

 その結果、食べる量に差がなかったにもかかわらず、非感染マウスでは体重が増加し、寄生虫マウスでは明らかに減少していた。また、非感染マウスに比べて寄生虫マウスでは、エネルギー代謝を上げる脂肪細胞のUCP1という蛋白質が著しく増えていた。つまり、ヒトや動物の小腸に寄生虫が感染すると、脂肪燃焼が活発になって痩せやすくなるのだ。

 UCP1を増加させる要因としては、交感神経系の働きを活発にするノルエピネフリンの関与が挙げられている。そこで、血中ノルエピネフリン濃度を測定したところ、非感染マウスに比べて寄生虫マウスはノルエピネフリン濃度が高く、寄生虫感染が交感神経を活発にして脂肪を燃焼させることが分かった。

ノルエピネフリンを分泌する特殊な腸内細菌が増加

 では、何がノルエピネフリン濃度を上げているのだろうか。

 腸内には約100兆個の腸内細菌が生息し、生体の恒常性維持に重要な役割を担っている。下川氏らは、寄生虫マウスと非感染マウスの腸内細菌叢を解析し、寄生虫のノルエピネフリンへの関与についても検討した。すると、寄生虫マウスではノルエピネフリンを分泌させる腸内のBacillus属菌とEscherichia属菌が明らかに増えていた。

治療法開発の新しい方向が示された

 今回分かった減量効果の仕組みをまとめると、次のようになる()。

  • 寄生虫に感染すると、ノルエピネフリンを分泌する特殊な腸内細菌が増えて、交感神経を活発にする
  • 交感神経が活発になると、エネルギー代謝を上げる脂肪細胞のUCP1が増加する
  • UCP1はエネルギーを熱に変え、体重を減少させる

図.寄生虫感染による体重減少のメカニズム(肥満マウス)

(群馬大学プレスリリース)

 どんなに肥満を改善したくても、寄生虫の卵を飲み込んで自分の腸内に寄生させる行為は安全性と有効性が確立されておらず、危険だ。

 今回のニュースは、肥満症治療開発の新しい方向を示した研究結果で、さらなる研究が期待される。

(あなたの健康百科編集部)