2019年05月09日 公開

AI版コウノトリであなたもママに

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 不妊大国といわれる日本では、体外受精の成功率(胚移植当たりの妊娠率)は25~35歳の女性で45%前後であり、米国でも45%程度にとどまっている。
 米ウェイル・コーネル医科大学のPegrah Khosravi氏らは、体外受精で移植に用いる胚の質を評価する人工知能(AI)を開発し、胚の質と母親の年齢に応じて妊娠可能性を判定する方法についてnpj Digital Medicine (2019)2:21で発表した。

体外受精を支える胚培養士

 体外受精では、子供を望むカップルの体内から精子と卵子を取り出して受精卵をつくり、それが胚になるまで培養した後、女性の子宮に移植する。移植した胚が着床して妊娠が成立するかどうかは、胚の性質に大きく左右される。

 胚の培養は主に胚培養士という専門職が行う。通常は、複数の胚を培養し、それぞれの胚の成長スピードや成熟度を見極め、妊娠が成立しやすい良質な胚を選ぶ。胚の質の評価は胚培養士の主観によるところが大きいため、担当者のスキルにより評価が異なったり、特別な技能を継承するのに時間がかかるといった問題がある。

AIで不妊治療の個別化医療を目指す

 このような状況を受けて、Khosravi氏らは胚の質を客観的に評価するAI「STORK(コウノトリ)」を開発。受精してから110時間後に撮影されたヒト胚の写真1万2,000枚と、それら胚の質(低質~高質)に関する胚培養士の評価をベースとして、「STORK」に学習させた。その結果「STORK」は、97%の精度で「質の低い胚」と「質の高い胚」を区別できるようになった。

 体外受精による妊娠が成功するかどうかには、胚の質以外にも母体の年齢、遺伝的背景などが影響する。そこで同研究では、「CHAID(決定木)」という機械学習法を用い、胚の質や母体の年齢と体外受精の成功との関係についても解析した。その結果、妊娠する可能性は「37歳以上41歳未満の女性で移植胚の質が低い」場合で13.8%、「36歳以下の女性で移植胚の質が高い」場合で66.3%であった。

 将来的にこの研究の成果が実用化できれば、胚培養士の技能に左右される問題が軽減し、移植に最も適した胚の選別が容易になる。また、体外受精を成功させるために複数の胚を移植する必要がなくなり、多胎の防止にもつながる。今後、さらに体外受精の成功を左右する要因についての研究が進めば、個々の母体の体内環境に最適な不妊治療を提供できるかもしれないという。

AIにより不妊大国からの脱却へ

 日本では、胚培養士の技能や資質を維持・向上させる仕組みとして、複数の学会による認定制度があり、欧米や中国などのような公的な資格制度を求める声も多い。しかし、胚培養士には高度な技能が求められる上、人の生命を預かるという責任の重さも伴うためか、全国的に人員が不足している。仮に、不妊治療を実施する施設に胚培養士の有資格者の配置を義務付けた場合、運営が成り立たない施設が生じることも懸念され、公的資格の問題は長期的な課題となっている。

 今後、胚の選定にAIを活用できれば、体外受精の成功率が高まり、胚培養士の育成が進むことも見込まれる。日本が不妊大国から脱却できるのも、夢ではなくなるかもしれない。

(あなたの健康百科編集部)