2019年05月22日 公開

病院を楽しい催しの場所に

大阪国際がんセンター「患者向けクラシック音楽会」

 大阪国際がんセンターでは、患者向けのクラシック音楽会を月1回のペースで開催している。プロのオーケストラによる生演奏に触れることができる機会として、毎回大勢の患者が鑑賞に訪れる。クラシック音楽会とはいえ、ジャズや映画音楽、日本の歌曲など、誰もが一度は耳にしたことのあるポピュラー曲も多く取り入れられている。同センター総長の松浦成昭氏によると、「病院では通常体験できないような楽しい催しを提供することで、がん患者さんの苦痛を和らげたい」との想いから、音楽会を続けているという。

センターに併設されたホールが会場

 大阪国際がんセンターの前身は大阪府立成人病センター。国内初の生活習慣病専門施設として1959年に設立されたが、がん患者の増加に伴ってがん治療の比重が増大。また、加速するグローバル化の潮流を見据え、2017年の移転を機に現名称に改めた。

 音楽会は成人病センター時代にも行われていたが、会場が病棟から離れた場所にあったことから、車椅子や点滴中の患者が楽に参加できるものではなく、毎回数える程の人しか聴きに来なかったという。

 一方、現所在地に移転してからの音楽会は、センター1階に併設されたホールで開催されるため、患者は点滴を受けながらでも気軽に足を運ぶことができる。取材に訪れた日の音楽会の参加者は100人以上。30分以上も前から開場を待つ患者の姿も多く見られた

在阪四大オーケストラが月替わりで演奏

 音楽会では、大阪交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、日本センチュリー交響楽団の在阪四大オーケストラが月替わりで演奏に当たる。この日出演したのは大阪交響楽団で、トランペット、トロンボーンの金管楽器にピアノを加えた三重奏が行われた。来年(2020年)創立40周年を迎える同交響楽団は、ザ・シンフォニーホールをはじめとするコンサートホールなどで、小編成の公演も含めて年間約250回の公演を行っている。

 大阪国際がんセンターで演奏する際、同交響楽団は毎回、聴衆を飽きさせない演出に工夫を凝らす。開演時間を迎え、ホール前方のステージに熱視線を送り、奏者の登場を待つ聴衆。しかし、オープニング曲の「聖者の行進」が流れてきたのは、後方の扉から。客席の通路をトランペット奏者、トロンボーン奏者が演奏しながらステージに進む。

 これを皮切りに、「カルメン前奏曲」「主よ、人の望みの喜びよ」「A列車で行こう」といった名曲が次々にホールを包む。プログラムの途中には、指揮者体験や手づくり楽器演奏体験、演奏に合わせて日本の歌を歌うなどの、聴衆が参加できるコーナーも。所定の1時間は瞬く間に過ぎ、アンコール曲「ラデツキー行進曲」で華々しく終演した。

「音楽会の日が外に出る格好の機会に」

 指揮者体験コーナーに参加した女性患者は「音楽会には毎月欠かさずに来ている。元気なときは、シンフォニーホールなどで開催されるクラシックコンサートをよく聴きに行っていた。しかし、がんになって、広くて人がたくさんいる会場がつらくなり、足が遠のいてしまった。こういう小規模な音楽会なら、体への負担が小さくて来やすい。いつもは家でのんびり過ごしているが、音楽会の日は外出する格好の機会になっている。病院でこんな催しをして下さり、本当に嬉しい」と喜ぶ。

 また、手づくり楽器の演奏を体験した女性患者は「管楽器の演奏経験はないが音が出せた。さすがにプロの演奏家、教えるのが上手」と感心しきりの様子だった。

 大阪交響楽団のトロンボーン奏者で、今回の演出を中心となって考えた矢巻正輝氏は「コンサートホールで演奏するときも、病院や学校などで演奏するときも、気持ちは同じ。聴いて下さった皆さんが『楽しかった』と思って帰ってもらえるように心がけている」と、演奏に込める思いを語った。

 トランペット奏者の徳田知希氏は「普段コンサートホールでオーケストラとして演奏するときは、金管楽器の位置は後方なので、客席がとても遠くにある。こういう場所でのアンサンブルは、客席がすぐそこにあるので、聴衆とコミュニケーションを取りながら演奏できる良さがある」と明言。ピアノ奏者の梅田望実氏は「音楽の醍醐味を聴衆の皆さんと分かち合えたら嬉しい。これからもいい演奏をたくさんしていきたい」と抱負を述べた。

大阪交響楽団のアンサンブルメンバー。左から矢巻正輝氏、梅田望実氏、徳田知希氏

「何か1つでも、患者さんの好きなものが病院にあれば」

「患者の視点に立脚した高度ながん医療の提供と開発」を病院運営の理念として掲げる大阪国際がんセンター。「病院なのだから、高度医療の提供と開発はある意味当たり前。そこに "患者の視点に立脚した"を付けたのは、真に患者の目線を持っているかどうかを、病院スタッフ全員に常に考えてほしいと思ったから」と松浦氏は説明する。

 今は2人に1人が生涯でがんに罹患するといわれる時代だが、治療の進歩を背景に、ある程度QOLを維持しながら長期に生存する患者も増えてきている。同氏は、そのような患者にとって、普通の暮らしを送れることがかけがえのない要素になると指摘。また、がん患者は肉体的・精神的なさまざまな痛みを経験しているため、その苦痛を和らげることも極めて重要であるとし、「がん患者さんの苦痛を和らげることこそ、私どもが重視しているポリシーの1つ」と強調する。

 そこで同センターでは、1階のホールで市民向けの講習会や落語・漫才の公演などを開催する他、外来フロアや病棟など、センターの至る所に、移転の際に公募で選んだ絵画や大阪府所蔵の「大阪府20世紀美術コレクション」から借りた美術作品を展示している。「お笑いが好きな人もいれば音楽が好きな人もいる。もちろん絵が好きな人も。患者さんにとって何か1つでも好みのものが当センターにあればいいと思う。病院は敬遠されがちな場所だが、こうしたものを提供することで楽しい所と感じていただき、患者さんの苦痛軽減につながれば」と同氏は語った。

(あなたの健康百科編集部)

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