2019年06月03日 公開

CAR-T療法は「夢の治療法ではない」

 国内初のキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)療法チサゲンレクルユーセル(商品名キムリア)が今年(2019年)3月に承認を取得し、5月22日に薬価が1回の投与当たり3,349万3407円に決まった。4月18日に東京都で開かれたメディアセミナーで講演した北海道大学大学院血液内科学教授の豊嶋崇徳氏は「チサゲンレクルユーセルは他に打つ手のない患者に治癒をもたらす治療法である」と期待を示した一方で、「誰でも受けられる治療法ではなく、重篤な副作用が出現するため、それなりの覚悟が必要だ。また、投与患者の1年生存率は50%であり、決して夢の治療法ではない」と過度な期待に警鐘を鳴らした。販売元のノバルティス ファーマによると、品質確保や副作用管理を慎重に行う必要性から、発売当初は同製剤の提供を2~3施設に限定する方針だという。

国内初のがん免疫遺伝子治療

 CAR-T療法は、がん細胞への攻撃力を高めるために、患者から採取した免疫細胞(T細胞)を遺伝子導入により改変して、患者の体内に戻すというがんの新しいタイプの治療法。がん免疫遺伝子治療とも呼ばれ、国内で初の承認となる。患者の細胞を用いて製造を行う「生きた細胞製品」であり、1人1人個別に製剤が製造される点が、既存の治療法とは大きく異なる。

 チサゲンレクルユーセルの治療対象になるのは、再発または難治性のCD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)および再発または難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)。国内の対象患者数は合わせて250人程度と予想されている。

患者の細胞採取から投与まで2カ月要する

 患者に投与するまでに複雑なプロセスを経るため、治療の適格性の判定からおよそ2カ月程度を要する。

 DLBCL治療におけるチサゲンレクルユーセル登場の意義について解説した豊嶋氏は「治療対象となる患者は、他に打つ手がない人であり、治癒をもたらす可能性のある治療法」と高く評価。一方で、「テーラーメイドの治療であり、患者の状態が悪化していたり、進行が早過ぎてCAR-T細胞の製造を待てないなどの理由で、投与対象の全例がこの治療を受けられるわけではない。前治療の影響でT細胞が採取できない、採取できても質の低下による製造不良の可能性の他、合併症のリスクもある」と治療の限界を挙げた。

1年生存率は50%も、重大な副作用が高頻度に出現

 とはいえ、既存治療に比べて高い有効性を有するため、豊嶋氏は「うまくいけば1回の治療で効果が得られ、患者のQOLが高まる可能性がある」と指摘する。
 再発・難治性DLBCL患者の生命予後は悪く、二次治療としての化学療法開始から1年後の生存率は約25%にとどまるのが現状だ。
 CD19陽性の再発・難治性DLBCL患者に対する国際共同第Ⅱ相試験JULIETの結果(追加解析、93例)を見ると、主要評価項目である奏効率(完全奏効または部分奏効)は51.6%であった。また、全生存期間の中央値は11.7カ月、12カ月生存率は49%であった。
 試験の結果を踏まえ、同氏は「投与から1年後の生存率は約50%。100%治癒するわけではなく、決して夢の治療法とは言えないが、大きな進歩だ」と強調した。

 一方、過剰な免疫反応による重篤な副作用が高頻度に現れるため、治療中は細心の注意が必要となる。高熱や血圧低下、呼吸困難、意識障害などの症状が出現し、重症の場合は集中治療室での治療が必要になるサイトカイン放出症候群(58%)、脳症(21%)の他に、神経毒性、血球減少などが現れる場合がある。
 これらを踏まえ、同氏は「強い副作用が出現する。それなりの覚悟が必要だし、同製剤の使用経験がある施設で治療を行う必要がある」と訴えた。
 その上で、画期的治療法であることから、「今後多くの患者から病院に同製剤に対する照会が予想される。しかし、治療の対象患者は限られるため、需給のバランスが破綻しないよう、専門医による慎重な適応の判断が必要になる」として、正しい知識の普及が重要になるとの考えを示した。

「歴史をひっくり返す新しい治療法」

 続いて、再発・難治性B-ALLにおけるチサゲンレクルユーセルの治療への期待を語ったのは、京都大学病院小児科講師の平松英文氏。同氏は、小児・若年成人を対象とした国際共同第Ⅱ相試験ELIANAの日本人における結果を紹介した。
 同試験に登録された8例の日本人CD19陽性再発・難治性B-ALL患者のうち、5~24歳の6例に同製剤を投与し、うち4例が寛解(3例が完全寛解、1例は血球数回復が不完全な完全寛解)に至った。寛解を達成した4例全てにおいて、再発の可能性を示す血液学的指標である微小残存病変が検出されなかった。

 この結果を踏まえ、同氏は「投与患者の66.7%で寛解を達成し、寛解に至った例では深い寛解を得ることができた。CAR-T療法は歴史をひっくり返すような画期的な治療法である」と述べた。一方で、6例中5例が重症のサイトカイン放出症候群を発症したことから、「重篤な合併症が起こりうる」と説明。さらに、同製剤に対する無効例や再発例に対する標準的治療法が確立されていないなど、「未解決の問題が残されている」と語った。

再発患者の経過は不良

 DLBCLは悪性リンパ腫の中で約30~40%と最も頻度が高い病型。標準治療は、複数の抗がん薬や抗体製剤リツキシマブを併用するR-CHOP療法で、3割超の患者が再発・難治例となる。これらの患者のうち、次の治療法である自家造血幹細胞移植(ASCT)を受けられるのは25%のみ。ASCTに不適、またはASCT施行後1年以内に再発した再発・難治性DLBCL患者の予後は不良で、平均余命は4.4カ月という。

 一方、急性リンパ芽球性白血病(ALL)は白血病の中で小児では75~80%、成人では20%を占める。白血病の1つであるリンパ球ががん化して異常な状態になり、骨髄などで増えていく疾患だ。白血病細胞の種類によりB細胞性(B-ALL)とT細胞性(T-ALL)に分類される。標準治療は化学療法で、80~90%が完全寛解に達するものの、小児で約20%、成人で約50%が再発する。再発患者の生存率は、小児では16~30%、成人では5~6%にとどまる。

(あなたの健康百科編集部)