2019年06月10日 公開

孤独な心不全患者は生活指導を守らない

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 心不全パンデミックという言葉をご存じだろうか。社会の高齢化に伴い、慢性心不全は増加の一途をたどっている。2005年に100万人を超えた患者数は、2020年には120万人、2030年には130万人に達すると推計されている。慢性心不全は完治することはなく、入退院を繰り返しながら悪化していく病気である。日本各地で、増え続ける心不全患者を入院させる受け皿はあるのかという懸念が深刻化している。この問題が心不全パンデミックなのである。

患者自身による生活管理が重要な慢性心不全

 慢性心不全では、患者自身による生活管理が非常に重要である。再入院の理由を調べた日本の研究では、「塩分・水分制限の不徹底」「治療薬服用の不徹底」「過労」「ストレス」といった患者側の要因が半分以上を占めていた。逆に言えば、「塩分や水分を取り過ぎない」「薬を正しく服用する」「むくみや体重増加を見過ごさない」「無理をして心身に負担をかけない」などの生活指導を守れば、再入院を防ぎ、自宅で長く暮らすことが可能なのである。

生活指導を守っているのは患者の7%

 この慢性心不全患者の生活管理について、注目すべき報告が行われた。5月25〜28日に、アテネで開かれた欧州心不全学会(Heart Failure 2019)においてポーランドの研究者が発表したもので、475人の慢性心不全患者を対象に、①毎日の体重測定②塩分制限③水分制限④適度の運動−の4つの生活指導項目について、どの程度の頻度で実行しているかを調査した。その結果、4つの指導をきちんと守る(週3回以上の体重測定、ほとんどの時間に塩分・水分制限と運動の必要性を意識)患者は7%にすぎなかった。48%の患者は運動をしていなかったし、25%は水分制限を、13%は塩分制限を行っていなかった。体重については、半数以上が週に1回未満しか測定していなかった。

 そして、女性は男性に比べて、65歳以上の高齢者はより若い世代と比較して、生活指導の順守率(アドヒアランス)が低いことも明らかになった。多変量解析という方法でさらに分析を行ったところ、「独居であること」「合併症の数が多いこと」などが、アドヒアランスを低下させる要因であることが分かったという。

家族や隣人も慢性心不全を知っておこう

 今回の研究では、服薬指導より生活指導の方がはるかに守るのが難しい点が示された。研究グループのBeata Jankowska-Polańska氏は、例えばエクササイズのやり方についてはイラストを載せたパンフレットを手渡す、折に触れ電話やメールで患者を励まし、生活指導を思い出させるといった取り組みを勧めている。

 また、患者環境に関連して、「一人暮らしはあらゆる面で、慢性心不全患者のアドヒアランスを低下させる。家族は心不全患者、とりわけ高齢患者を励まし、指導内容を思い出させ、実際的な手助けを行うという点で中心的な役割を果たしている」と指摘した。

 とはいえ、日本では独居の高齢者が増え続けている。そうした例では、離れて暮らす家族、近所に住む友人や知人の役割が重要になる。心不全は患者自身による生活管理が欠かせない病気であり、種々の生活指導を守ることが悪化や再入院を防ぐ最善の方法である点を、患者の周辺の人々も理解しておくべきであろう。そして、折に触れて、運動や体重測定の重要性、塩分・水分制限の意義を思い出させてほしい。

(あなたの健康百科編集部)