2019年06月18日 公開

哺乳類の生命力はクマムシに匹敵!?

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 クマムシは体長1mm以下でありながら、体の水分の大半を排出して乾眠状態になることで高圧や高温/低温に耐え、放射線照射、宇宙空間(真空)などの極限の環境でも生きられることから"最強生物"と呼ばれる。一方、ヒトなどの哺乳類は低温では細胞内の水分が結晶化し、高温では蛋白質が変性する。そのため過酷な環境にさらされると死んでしまい、生き返ることはできないと考えられてきた。山梨大学発生工学研究センター特任助教の若山清香氏らの研究グループは、哺乳類でも凍結乾燥(フリーズドライ)状態の精子であれば強い温度耐性を発揮し、生命の復活が可能であることをマウス実験により発見、学術誌Scientific Reports2019; 9: 5719)に発表した。

フリーズドライ技術を精子の凍結保存に応用

 クマムシやユスリカをはじめ古細菌、イースト菌などのいわゆる"下等生物"は、高温/高圧、真空といった過酷な環境でも生き延びられることが知られている。  

 山梨大学のグループはこれまで、クローン技術による絶滅動物の復活や絶滅危惧種の保全、フリーズドライ技術を用いた哺乳類精子の室温保存などについて研究を行ってきた。1998年には、世界で初めてフリーズドライで保存したマウスの精子から仔マウスを誕生させたが、室温で精子を保存できた期間は数カ月と短かった。

 しかし、昨年(2018年)には、机の引き出しの中で1年以上保存したマウス精子から仔マウスを誕生させることに成功。他にも国際宇宙ステーションでの長期保存実験などにも取り組んでいる。

 そうした研究成果を踏まえ、研究グループは地球規模での大災害が起こっても哺乳類が絶滅を免がれられるように、精子はどれぐらい過酷な環境に耐えられるのか、また劣悪な環境でも長期保存が可能かを4つの研究で検討した

−196〜150℃の極限状態に耐える強靭さが判明

 1つ目の研究では、4種類のマウスのフリーズドライ精子を−30℃の冷凍庫に入れる、または−196℃の液体窒素に浸してから室温に戻す処理を10回繰り返し、1回処理と10回処理した場合で顕微鏡受精による産仔率(仔マウスが生まれる数)を比較した。その結果、全種類とも1回処理には若干劣るものの、10回処理した精子でも十分な数の仔マウスが誕生した。

 2つ目の研究では、フリーズドライ精子を①65℃②80℃③95℃−のオーブンで30分間加熱し、同様に産仔率を比較した。すると、フリーズドライ加工をしていない新鮮精子では65℃を超えると仔マウスが生まれなかったのに対し、フリーズドライ精子では95℃の熱処理を行っても仔マウスが誕生した。

 3つ目の研究では、フリーズドライ精子は95℃の加熱に最長6時間耐えられること、4つ目の研究では、クマムシなどが乾眠する際に体内にため込むトレハロースという物質をフリーズドライ精子に添加すると、150℃で3分間加熱しても多数の仔マウスが生まれることが分かった。

 これらの結果から、研究グループは「マウスの精子は、クマムシに匹敵するほど強い耐性を備えていることが分かった。また、凍結精子の保存には液体窒素や超低温冷凍庫を必要とし高額なコストがかかる上に、大規模災害時に対応できないといった問題があったが、ガラスアンプルに収まるフリーズドライ精子は軽くて場所を取らないばかりか、常温さらには劣悪な環境でも保存ができる。今後は、他の哺乳類でも実験と検証を重ね、植物の種子と同様に精子を半永久的に保存できる技術を開発したい」と展望している

(あなたの健康百科編集部)