2019年06月20日 公開

認知症の告知、医師にも戸惑い

 国内の認知症患者数は462万人(2012年時点)と推定され、2025年には700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の5人に1人を占めるといわれている。増加を続ける患者の診断・治療に当たるかかりつけ医は、認知症の告知についてどのように考えているのか。浜松医科大学と米・ミシガン大学の共同研究グループが行った調査から、現場の医師には認知症の告知に対する姿勢に温度差が見られること、伝え方にも個人差があることなどが明らかになった。詳細は、医学誌BMC Family Practice2019; 20: 69)に発表された。

都市部と地方で病名告知の実態を調査

 医師から患者への病名告知は、がんのような深刻な病気ではかつてはタブー視されていた。しかし最近では、医療の進歩により多くの病気で治癒が期待できるようになったこと、患者が病気について理解し積極的に治療に参加した方がメリットが大きいこと、医師が患者に治療方針を十分に説明し同意を得るインフォームド・コンセントの考え方が広まったことなどから、本人に病名を告知することが一般的になっている。  

 認知症でも同様に、本人への病名告知が患者の利益になるといわれているものの、日本の医療現場の実情についてはあまり検討されておらず、診療ガイドラインなどでも告知の方法については明示されていなかった。

 そこで研究グループは、日々、多くの高齢者の診療に当たり、患者が増え続ける認知症ケアの最前線で重要な役割を果たしているかかりつけ医を対象に、認知症の病名告知の実態についてインタビューを実施。都市部と地方のかかりつけ医各12人、計24人から得られた回答について検討した。

本人への告知をためらう医師は少なくない

 その結果、全ての医師が患者の家族に対しては病名を告知していたが、4人の医師は家族のみに行うと回答し、一部の医師は状況に応じて家族と話し合うと回答した。家族に対する告知が多い理由としては、患者の症状に悩まされた家族からの訴えにより認知症が疑われて受信し診断されるケースが多いこと、患者の認知機能が低下しているため意思決定プロセスに家族を参加させる必要があることなどが挙げられた。本人への告知をためらう理由としては、「"悪い知らせ""差別や偏見"と受け止められるのではないか」「どのように伝えるのが適切か分からない」という心理的な懸念や、「認知症は老化の自然な過程であるため、告知する必要がない」との考えなどが示された。

 また、患者本人に告知した医師でも、病名や経過についての説明には差が見られた。「診断後の平均余命は5〜7年で、多くの場合は口から食べられなくなったり、感染症になったりして死に至ります」と具体的に告げる医師がいた一方で、はっきり認知症とは告げず、遠回しに「物忘れ」「ぼけ」「痴呆」などと伝える医師もいた。認知症患者の経過の予測については、多くの医師が難しいと考えており、「いたずらに患者の不安をかき立てる恐れがあるので、余命に関する話題に触れることはめったにない」との回答もあった。

 研究グループは「日本のかかりつけ医の多くは認知症の病名告知を行っているものの、その方法や考え方には差があること、患者本人への伝え方に確信が持てない医師がいることが分かった。今回の結果は、医療界全体で認知症の病名告知の在り方に関する議論が不足しており、こうした問題についてのより多くの対話とかかりつけ医に対するトレーニングが必要であることを示唆している」とまとめ、「今後は、日米両国でかかりつけ医が行っている認知症診療を比較し、国内の分析だけでは気付きにくいケアの質の改善方法などについて検討していきたい」と展望している。

(あなたの健康百科編集部)