2019年07月05日 公開

ALS患者が自分の声でコミュニケーションし続けるために

「ALS SAVE VOICE」プロジェクトが進行中!

「ALS SAVE VOICE」プロジェクトのプレス発表会で、自身の合成した声で自己紹介するWITH ALS代表・武藤将胤氏

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、意識や体の感覚は正常にもかかわらず、手足、喉、舌などの筋肉が徐々に衰えることで、呼吸や発声が困難になる難病だ。日本には約1万人の患者がいると推定されるが、まだ有効な治療法はなく、患者の多くが、思うように体を動かせないことに加え、いつか自分の声を失い家族や友人とコミュニケーションが取れなくなってしまうのではないかと恐怖を感じている。

 しかし今、ALS患者がいつまでも自分の声で発話し続けられることを実現させるプロジェクト「ALS SAVE VOICE」が進行中だ。ALSへの認知や理解を高める活動を行っている一般社団法人WITH ALS、目を使った意思伝達装置の開発を手がける株式会社オリィ研究所、音声合成プラットフォームを提供する東芝デジタルソリューションズ株式会社が共同でプロジェクトに着手。今年(2019年)5月にクラウドファンディングで資金を集め、今夏から秋にかけてシステムのローンチを目指している。6月20日に都内で行われたプレス発表会から、システムの概要を報告する。

視線入力装置と音声合成アプリで自分の声による発話を実現

 今回発表されたシステムには、オリィ研究所が既に発売している意思伝達装置「Orihime eye」と、東芝デジタルソリューションズのスマホアプリ「コエステーション」が使われている。

 Orihime eyeは、専用のパソコンに視線入力装置を取り付けた状態で、ディスプレイに表示されたデジタル透明文字盤を目線で追うことにより、文字を選択して文章が作成ができる。つくった文章は、音声で読み上げることもできる。定価は45万円だが、補装具費支給制度(障害を持つ人が自活するために、体の機能を補う器具などを購入する際に補助金支給などが受けられる制度)が適応されると、約1割負担の4万5,000円程度で購入できる。

 一方、コエステーションは、自分の声の特徴を持つ「コエ」と呼ばれる音声を生成する、無料のスマホアプリだ(現在はiPhoneのみ対応)。アプリをダウンロードし、指示に従って幾つかの文章を読み上げると、人工知能(AI)がその人の声の特徴を学習して、コエを生成する。ある程度の長さの文章を複数読み上げる必要があるため、自力で話せるうちに音声を保存しておかねばならない。

 この2つの技術を組み合わせ、①コエステーションをダウンロードし、手順に従ってコエを生成する②Orihime eyeを用意し、Orihime eyeとコエステーションを、それぞれのIDによって接続③Orihime eyeのデジタル透明文字盤を使って伝えたい文章を入力すると、生成されたコエが文章を読み上げる―という仕組みだ。

病気になっても、その人らしさを尊重する社会に

 従来の音声読み上げ装置は、本人の声を使えなかったため、たとえコミュニケーションが取れたとしても、本人や家族、友人らは声を失ったことへの喪失感があった。このシステムでは、そういった問題が解消できる。また、音声に嬉しい、悲しいといった表情をつける機能も搭載されており、感情のニュアンスが伝わりやすくなるなど、より会話を楽しむことにつながる。さらに、このシステムと分身ロボット(別途、レンタルで提供)を連動させて、本人は自宅のベッドにいながら、ロボットを介して会社の会議に参加するなど、社会活動を行うことも可能になるという。

 WITH ALS代表でALS患者でもある武藤将胤氏は、気管切開後しばらくの間は全く声が出せず、妻に感謝や愛情を伝えることができないなど、非常にもどかしい思いをした自身のエピソードを紹介。また、ある日突然ALSと告知された経験から、誰でも病気になったり体調を崩す可能性があり、これらのテクノロジーは決して一部の人だけのものではないことを強調し、「自分の声で話し続けられることは、誰にとっても大切なことだ」と訴えた。

 病気や障害の有無にかかわらず、誰もが自由にコミュニケーションを楽しんだり、自分らしい声で活躍したりできる社会の実現に、いっそう期待したい。

(あなたの健康百科編集部)