2019年07月15日 公開

東洋的コミュニケーションが引きこもりに影響?

©Getty images

 日本人を含む東洋人は、ルールを重視しつつ個人主義的な西洋人に比べて集団の中での調和を重んじ、たとえ対立したり矛盾したりする主張であっても、集団の調和を乱さないことを優先し受容する傾向にあるといわれている。また、「阿吽の呼吸」や「以心伝心」といった言葉があるように、会話でのコミュニケーションについても相手の思いを察するのがよいこととされ、最近でも「KY(空気が読めない)」や「忖度」が流行語になるなど同様の傾向が見られる。ところが、こうした東洋的なコミュニケーションスタイルは引きこもりなどの社会的孤立を生み出す可能性があるとの研究結果を、大阪市立大学文学研究科教授の山祐嗣氏らが英国の心理学専門誌 Journal of Cognitive Psychology2019年6月4日オンライン版)に発表した。

コミュニケーションの発展には、地勢と異文化交流が関連

 「集団主義的な東洋人と個人主義的な西洋人」という文化の違いは、どのように生まれたのだろう。また、集団主義的とされる人々の中でも、日本のように矛盾を受容するコミュニケーションがより発達した国と中国のようにそうでない国があるのはなぜだろうか。山氏らは、それらを「コンテクスト」という考え方で説明している。

 コンテクストとは、コミュニケーション時に話し手と聞き手で共有される「言語や共通の知識、経験、価値観」などを指し、「暗黙の了解」ともいわれる。コンテクストが共有されたコミュニケーションスタイルとは、例えば「(あなたは)あれ(テストの結果)、どうだった?」「(君は)明日、(私と)行ける?」のように、主語を省略しても通じ合える「ツーカーの仲」状態である。逆に、関東の人がマクドナルドのことを「マック」と省略した際に、関西の人が「マッキントッシュのパソコンがどうしたの?」と勘違いしてしまうような場合は、コンテクストが共有されていない状態である。

 同氏らは、コミュニケーションスタイルの差が生まれる理由として地勢と異文化交流を挙げる。すなわち、国土が横に長く人々の移動が容易で、ギリシャ・ローマ文化とイスラム文化などの異文化交流が盛んであった西洋では、共通の文化的背景に頼ったコミュニケーションが通じないため、他の地域より「個人主義=低コンテクスト文化」が発展した。一方、縦に長く山や海に阻まれて移動が困難なアジアなどでは集団主義が発展し、その中でも漢民族を中心に文化的統一がなされたものの領土が広大で西洋とも面していたため異文化交流の機会が多かった中国に比べ、島国で単一民族の日本ではより高コンテクスト文化が発展したというわけだ

急激な産業化が社会的孤立の原因に

 ところが、近年の急速な産業化の進展に伴う都市生活者の増加により、こうした東洋的なコミュニケーションスタイルが思わぬ問題を生んでいる可能性があると山氏は指摘する。

 昔ながらの村落を中心とした顔見知りの共同体生活であれば「阿吽の呼吸」でうまくいくかもしれないが、互いの文化背景を知らない人たちとのコミュニケーションが必要な都市生活ではそうはいかない。しかし、現代の日本ではあまりに急激な社会の変化にコミュニケーションスタイルの変化が追いつかず、必要以上に高度なコミュニケーションスキルが求められる状態に陥っているというのだ。

 コミュニケーションがうまくいかずに不安を覚えたり、「察しが悪い」「KY」などの同調圧力を受け相手に対して恐怖、敵意を抱いたりした人では、引きこもりや無縁社会といった社会的孤立の問題が生じる可能性があるという。実際、引きこもりは日本や韓国、台湾など産業化が進展した高コンテクスト文化の地域で多く見られる。

 今後、グローバル化はますます進展し、来年(2020年)の東京オリンピック・パラリンピック大会などで多数の外国人と交流する機会も増えると想定される。そうした際には、せっかくの好意が無駄にならないよう、文化背景が異なる相手には東洋的なコミュニケーションスタイルが通じない場合があること、コミュニケーションの押し付けは社会的な問題につながる可能性があることに気を付けたいものだ。

(あなたの健康百科編集部)