2019年07月18日 公開

脳波が変えるALS患者のコミュニケーションって?

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、意識や体の感覚は正常であるにもかかわらず、全身の筋肉が徐々に衰えていく難病だ。日本には約1万人の患者がいると推定されるが、まだ有効な治療法はない。病気が進行すると、体を動かしたり呼吸や発声が困難になるため、文字盤に書かれた文字を目で追って、他者とコミュニケーションを取る患者もいる。しかし、最終的には眼やまぶたを動かす筋肉も衰え、周囲との意思伝達ができなくなってしまう「完全な閉じ込め状態(Total Locked-in State;TLS)」に至ることがあり、多くの患者がTLSへの恐怖と闘っている。

 そこで、ALS患者の武藤将胤氏が代表を務める一般社団法人WITH ALSと、脳波などの生体信号解析や生体信号を使った商品開発を行う株式会社電通サイエンスジャムは、脳波を利用したコミュニケーションを実現するプロジェクトに挑戦している。6月20日に都内で行われたプレス発表会から、その概要を紹介する(関連記事「ALS患者が自分の声でコミュニケーションし続けるために」)。

脳波とAIを駆使した「BRAIN RAP」プロジェクトが始動

 今回のプロジェクトの第一歩として、両社は「BRAIN RAP」を始動させた。これは、武藤氏の脳波から作成したリリック〔韻(いん)を踏んだ文章〕をラッパーが音楽に乗せて代弁し、パフォーマンスとして成立させるという内容だ。このプロジェクトでは、「NOUPATHY(脳パシー)」と「意識の辞書」という2つの技術を組み合わせている。

 まずNOUPATHYは、使用者が音声を意識するときに発生する特殊な脳波を読み取る、新しいコミュニケーションツールだ。NOPATHYを構成する機器は、簡易型脳波計とタブレット端末、イヤホンのみ。イヤホンから流れる幾つかの音に「トイレに行きたい」など個別のコマンドをあらかじめ割り振っておき、使用者が希望するコマンドの音に意識を集中し、脳波計とタブレットを通じて今行いたいことを伝えるという仕組みだ。コマンドを文字として直接イメージするよりも、音声として意識したときの方が強い脳波が現れるため機器が感知しやすいという。さらに、構成される機器が非常に簡素で装着時間は30秒程度。ヘッドバンド型でワイヤレスの脳波計とタブレットを使っているため、持ち運びしやすいという特徴もある。現在、動物の鳴き声など5つの音とコマンドについてテスト中だという。

 一方、意識の辞書は使用者が書き起こしたメッセージを人工知能(AI)が学習し、同じような意味、文脈で使う言葉が近くに並ぶように単語マップを生成するシステムだ。単語マップから提示された2つの単語のうち、使いたい方を選択し、それを基にAIがリリックを生成する。言葉を選択する際にNOUPATHYの技術が使われており、使用者は2つの単語に割り振られた異なる音のうち、使いたい言葉と結び付いた音に意識を集中させる()。

図. BRAIN RAPのイメージ

脳波を読み取るコミュニケーションツール「NOUPATHY」(イラスト左)と、単語マップ生成システム「意識の辞書)(イラスト右)を組み合わせて作られたリリックを、ラッパー(イラスト中央)が代弁する

(プレス発表会の資料を基に編集部作成)

 武藤氏は今回のプロジェクトについて、ALS患者だけでなく全ての人のコミュニケーションを明るく楽しいものにしたいという思いから、エンターテインメントという形式を採用したという。NOUPATYは7月26~27日に横浜市で開催される「ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド」への出展が、BRAIN RAPは12月22日に東京とで開催されるALS啓発音楽フェス「MOVES FES. 2019~NO LIMIT,YOUR LIFE.〜」での披露が決定しており、ALS患者に希望を与えつつ、今後さらに多くの人を楽しませてくれそうだ。

 また、同プロジェクトはクラウドファンディングプラットフォーム「GoodMorning」で2019年9月7日まで資金を募集している。興味のある方は、応援してみてはいかがだろうか。

(あなたの健康百科編集部)