2019年08月01日 公開

乳がん治療に伴う脱毛と発毛:アピアランスケア最前線

 がん治療に伴う頭髪の脱毛は患者の生活の質(QOL)の悪化につながり、治療に対する意欲を低下させて治療の成否に大きな影響を及ぼす恐れがある。また、厚生労働省の調査によると、がん患者の58.1%が「治療による外見の変化」を経験しており、近年、「アピアランス(外見)ケア」への関心が高まっている。群馬大学病院乳腺・内分泌外科診療教授の藤井孝明氏らは、乳がん手術前後に行ったがん薬物療法の「有害事象(薬剤との因果関係は不明だが、治療により生じた有害な反応)」について研究を行い、第27回日本乳癌学会で報告した。

患者アンケートで有害事象の経過を調査

 がんの治療では、薬剤の投与によってがん細胞の細胞分裂を抑えて増殖を防ぐ治療(化学療法)が行われるが、化学療法はがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼす。特に、分裂速度が速い造血細胞や粘膜、毛根の細胞に対する影響が大きいといわれている。よく見られる有害事象には悪心・嘔吐、脱毛、骨髄抑制(白血球などの血液成分をつくる機能の異常)があるが、薬剤の種類や個人により差がある。有害事象が発生する時期もそれぞれ異なり、悪心・嘔吐は薬剤の投与直後から2~3日後、口内炎は1~2週間後、脱毛は2~3週間後、末梢神経障害(手足の痺れ)は3~4週間後から発生するとされている。

 また、日本人がん患者に行った調査では、乳がんの女性が治療時に体験した身体上の苦痛の上位20項目のうち、12項目が「アピアランス(見た目)」に関連していたことが報告されている(Psychooncology 2013; 22: 2140-2147)。しかし、化学療法による有害事象の経過を検討した報告は少なく、特に脱毛に関するものは極めて少ない。今回の研究は、手術の前後に2種類の化学療法を行い、有害事象に関するアンケートと半年間の経過観察を行った45人の乳がん患者(平均年齢53歳)に対して実施された。

 脱毛以外の有害事象の結果はの通りであった。悪心は化学療法による治療の終了時には7割程度の患者で起きていたが、6カ月後にはほとんど見られなかった。口内炎は治療終了時には患者の6割くらいに発生し、6カ月後にも2割程度で認められた。便秘、下痢、味覚症状、不眠症については、治療終了時に高い頻度で発生していたが、6カ月後には発生している患者は減少していた。末梢神経障害と爪脱落は、治療終了時よりもむしろ6カ月後に多く発生していた。

図. 治療終了時および治療終了6カ月後の脱毛以外の有害事象の頻度

 

化学療法により全ての患者で頭髪に75%以上の脱毛が発生

 脱毛については、頭髪では全ての患者で75%以上の脱毛が生じた()。脱毛が始まった時期は、化学療法を始めてから14日後(中央値)であった。眉毛、まつ毛、体毛についても9割前後の患者で脱毛が生じていたが、75%以上の脱毛の頻度はそれぞれ異なっていた。多くの患者で頭皮の痒みや痛みが発生したが、アピアランスについては全ての患者でウィッグ、帽子などにより適切にケアされていた。

表. 化学療法により誘発された脱毛


(図、表とも藤井孝明氏提供)

 頭髪に毛が生え始める時期については、治療中から発毛が見られた患者が2割程度いたものの、多くの患者は治療終了から2カ月後ほどであった。ただし、45人の患者のうち、1人だけは治療終了から6カ月を経過しても発毛しなかった。新しく生えてきた頭髪は元の毛と比べて変化していることがあり、細く、柔らかく、巻き髪になり、白髪化しているケースがあった。

 藤井氏は「今回の研究により、手術前後の化学療法による脱毛の発生とその後の状況について、その一端を把握することができた。これらの研究結果は、今後のがん患者の治療に生かせる可能性がある」と結論。その上で、「発毛の状況や毛髪の変化は治療だけでなく年齢などの影響も考えられるため、今後さらに研究を続ける必要がある。また、発毛の経過やウィッグの着用終了時期などについても調べる必要がある」と付け加えた。

(あなたの健康百科編集部)