2019年08月02日 公開

見逃されやすいたばこ病「COPD」

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 あなたは慢性閉塞性肺疾患(COPD)という病気をご存じだろうか。喫煙が主な原因で、世界で30秒に1人、日本でも30分に1人が命を落としている恐ろしい肺の病気だ。現時点でCOPDを根本的に治す方法はない。つまり、いったんかかってしまうと、肺を元の健康な状態に戻すことはできない。しかも進行性で見逃されやすい。喫煙がリスクを高める病気は肺がんだけではないのだ。先ごろ開催されたアストラゼネカ社主催のメディアセミナーでは、東北大学大学院内科病態学講座呼吸器内科の一ノ瀬正和教授が、日本におけるCOPDの現状と課題をテーマに講演した。同講演で提示された調査データから、COPDの早期発見を阻む要因や注意点を紹介する。

COPDによる喫煙者の死亡率は非喫煙者の約10倍

 COPDは、有害なガスの刺激により肺の気管支が炎症を起こして狭くなり、ついには気管支末端の肺胞が破壊される病気。階段の上り下りなどで体を動かすと息切れがしたり、かぜでもないのに咳や痰が続くといった症状が出る。さらに悪化すると呼吸不全や心不全を起こし、最悪の場合は死に至る。

 COPDの原因となる有毒ガスとして排気ガスや黄砂などの大気汚染物質、薪や炭などのバイオマス燃焼の煙が挙げられるが、最大の危険因子はたばこの煙である。これまでの研究から、COPD患者の約90%に喫煙歴があること、喫煙者がCOPDで死亡する確率は非喫煙者の約10倍に上ることが分かっている。

多くが見過ごされ診断時には既に進行

 ただし、たばこを吸い始めてすぐにCOPDになるわけではなく、吸ったたばこの本数や期間が大きく影響する。肺へのダメージが徐々に蓄積されて発症するのだ。2004年に一ノ瀬教授らが行った国内調査によると、COPDの有病率は40歳代で3.1%、50歳代で5.1%、60歳代で12.2%、70歳以上で17.4%と高齢になるほど高く、40歳以上の人口の約1割がCOPDと見込まれ、患者数は約530万人に及ぶと推算されている。

 一方、2014年に厚生労働省(厚労省)が行った調査によると、1996~2014年に病院でCOPDの治療を受けた患者数は年間20万~24万人とそれほど変わっていない。ここで気付くことがある。先述したように、日本の全患者数は約530万人と見込まれているのに、治療を受けているのはわずか20万~24万人と、両者に大きな開きがある点だ。これについて同教授は「COPDは徐々に進行するため、喫煙者の多くは気付かずに生活している。したがって、受診もしない。たばこを吸い始めて40年ほどたち、苦しくなって病院に行くころには、かなり進行してしまっている」と述べた。

 また、興味深いのは、同教授らが2007年に45歳以上で喫煙歴があり、COPDの診断基準を満たす400人を対象として行った電話調査だ。その結果から、高血圧、糖尿病など他の病気で開業医、クリニック、病院の内科に通院しているにもかかわらず、COPDを見逃されている人が相当数いることが分かった(80人、20%)。つまり、かなりの人が痰や咳、息切れがあるのにかかりつけ医に伝えず、COPDの発見および治療の機会を失っているのだ。

適切な治療で"長生き"が可能に

 進行性で根本的な治療法がないCOPDだが、早期に発見し適切な治療を受ければ、進行を遅らせることはできる。厚労省が行った人口動態統計(1995~2017年)によると、COPDの治療を受けて80歳までに死亡した患者の割合は、1995年の約42.5%に対し、2017年では27.5%と大きく減少している。一ノ瀬教授は「この結果は、COPDを早期に発見し、適切な治療を受けることで、多くの患者が80歳を迎えられることを示している」と述べた。さらに「COPDの治療対象となる高齢喫煙者のほとんどは、動脈硬化、骨粗鬆症、糖尿病なども患っており、COPDを見逃すとそれらの病気も悪化させてしまうことにつながる。他の病気のためにもCOPDの治療は重要である」と指摘する。

 こうした治療による恩恵には、薬の進歩が大きく貢献しているようだ。同教授によると、COPDの治療には主に気管支拡張薬が用いられるが、2000年以降に登場した長時間作用を発揮する薬によって治療成績は劇的に向上した。1回の使用で気管支を長時間拡張できるようになり、患者の負担も軽くなった。

 来年(2020年)開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けた受動喫煙対策の強化、相次ぐたばこの値上げなど、喫煙者を取り巻く環境が厳しさを増す中、さらにCOPDの影も忍び寄る。もし、あなたがある程度の喫煙歴を持つ喫煙者で、痰や咳、息切れで悩み始めたら「たばこを吸っていればよくあること」と軽く見ず、かかりつけ医に相談することをお勧めする。知らず知らずのうちに"見逃されグループ"に入ってしまう前に。

(あなたの健康百科編集部)