2019年10月31日 公開

パーキンソン病患者の嚥下障害の予防と対策

 徐々に体の動きが不自由になっていくパーキンソン病(PD)の治療は、服薬の調整と運動による運動機能の維持が中心となる。しかし、PD患者では正常に物を飲み込むことができない"嚥下(えんげ)障害"が起こりやすく、それが服薬の妨げになる場合がある。国立精神・神経医療研究センター病院脳神経内科医長の山本敏之氏は「PDの症状を抑えるためには服薬治療が必要だが、その際に嚥下障害の予防と対策が重要となる」とアッヴィ社主催の講演会で述べ、嚥下障害に対する具体的な対策を提示した。

食べ物は気管に入れず食道へ

 嚥下機能が正常な人では、口に入れた食べ物を意識せずに飲みこみ、喉と食道を通して胃に送り込んでいる。自分の口で飲んだり食べたりすること(嚥下)の継続、また単に継続するだけでなく安全な嚥下を続けることは重要である。食べ物は、呼吸によって吸い込まれた空気と途中まで同じ場所を通る。喉の手前側には空気が通る気管があるが、食べ物を気管に入れず正しく食道に送るのが正常な嚥下である。嚥下は食事以外にも唾液を飲み込む、薬を飲むなど、毎日行っている。

 液体の嚥下は口から喉に送られ食道へと進むが、咽頭から食道に行く途中、喉を上の方につり上げて気道の方に入るのを防ぎながら、食道に行く道を広げる(ごっくんと飲み込む動作)。食べ物の嚥下は、それにかむ(咀嚼)という動作が加わり、かんでいる最中にも食べ物を喉へと進めている。

 しかし、ひとたび嚥下障害が起こると食べ物の輸送が妨げられ、正常に嚥下ができなくなると食べ物が気道から肺に入り、誤嚥性肺炎を発症しやすくなる。PDの進行期には特に嚥下障害への注意が必要。体の動きが悪くなると、口から食べ物も食べられなくなる。口から食事ができている間にも嚥下障害の症状は現れ、悪化すると食べ物が気管に入って肺炎を繰り返すようになる。

PD患者は肺炎と窒息が多い

 嚥下障害が悪化して日常生活動作の低下が進むと、肺炎を起こしやすいだけでなく、栄養障害でひどく痩せたり薬を飲むことも難しくなる。山本氏は「PD患者は診断から15年ほどで嚥下障害を合併するといわれている」と説明した。

 また、PDでは肺炎や窒息も多いといわれる。2007年のデータでは、PD患者の死因の1位は肺炎(22.1%)、次いで突然死(7.6%)、窒息(3.8%)、がん(3.8%)、腸閉塞(3.1%)などである。2018年の日本人の主な死因(厚生労働省発表)は1位ががん(27.4%)、次いで心疾患(15.3%)、老衰(8.0%)、脳血管疾患(7.9%)、肺炎(6.9%)となっている。PD患者の死因で肺炎が非常に多いことが分かる。

 嚥下障害の中でも、普通は気管に食べ物が入るとむせて咳が出て食べ物を押し戻すが、咳が出ずにそのまま気管に入ってしまう"不顕性誤嚥"が大きな問題となる。しっかり咳が出れば、咳の風の勢いで食べ物を戻すことができるが、不顕性誤嚥では気管に入った食べ物が重力によって下に進んでしまうため、誤嚥性肺炎を起こしやすく危険な嚥下といわれる。

飲み込むときは「ごっくん」が大事

 嚥下障害のもう1つの問題は、食べ物が途中で詰まって呼吸できない状態になる窒息。食べ物の通り道は入り口である口が一番大きく、徐々に喉の奥の狭い部分へと輸送される。そのため、咀嚼して食べ物を細かくし、ごっくんとする動作で喉を広げる。これがうまくいかないと、食べ物が詰まって窒息することになる。山本氏は「細菌、窒息事故が増えている。交通事故で死亡する人は年々減っている一方で、窒息事故で亡くなる人は年々増加している。窒息事故の90%が高齢者である」と指摘した。

 嚥下障害がある人の特徴は、①ここ1年で痩せた(特に3kg以上)②服薬時にむせる③食事中に動きの悪さがある−などである。同氏は「もし、この中に該当する症状があるようなら主治医に相談するように」と述べた。

錠剤がのどに引っかかってしまうことも

 PDでは服薬治療が重要であるため、嚥下が大きな問題になる。嚥下障害があるPD患者では薬が効いていない(Offの)状態で服薬できず、そのため薬が効いている状態(On)にならない。嚥下障害→服薬できない→Onにならない、という悪循環を延々と繰り返すことになる。

 嚥下障害があると、喉に錠剤が引っかかってしまうケースもある。このようなケースでは咳をした弾みに錠剤が出てくることがある。咳で胃の中の物が出てくることはまずないため、そのような場合には喉の途中に引っかかっている可能性があることを認識しておくべきだという。山本氏は「薬が飲みにくい、引っかかって進んでいかないような場合には、やはり主治医に相談して、錠剤を粉砕する、経口ではない薬剤を選ぶ、などの対策が必要となる」と述べた。

背筋を伸ばして顎を引く

 PD患者の嚥下障害における実際の対策として、まず重要になるのが姿勢の調整。PD患者は猫背の人が多く、猫背では食道が圧迫された状態になる。山本氏は「椅子に深く座って背筋を伸ばして顎を引く。この姿勢によってかなり飲みやすくなるので、ぜひ試してみてほしい」と述べた。また、飲み込むときに少し横を向いて首をずらすと食道に隙間ができて飲みやすくなる。

 さらに、むせた場合の咳の大きさが重要だという。小さな咳では気管に入った物を出すことはできない。息を深く吸って大きく「ゴホン」とする。大きい咳ができれば、物が多少気管に入っても出すことができる。同氏は「調理や食べるときの工夫も大事」として、以下のポイントを挙げた。

・一口で飲み込めない大きさの食べ物は小さくし、食べやすくする
・喉を通りにくい食べ物(餅など)は避ける
・喉の奥でくっつき合うような食べ物(カボチャなど)は避ける
・水分でむせる場合は、しっかりと大きく咳き込み、気道から物を出すように意識する
・水分でむせる場合は、試しにとろみを付けてみる
・咀嚼中に水分が出る食べ物(スイカなど)は誤嚥しやすいので注意する

 消費者庁発表の「窒息事故が発生した食べ物の例」のデータでは、餅が第1位でご飯、あめ、パン、寿司、お粥、リンゴなどが続いた。同氏は「日本では餅が1位だが、米国ではビーフステーキが1位。かみ切りにくい物を大きいまま飲み込むことで窒息の原因となる」と指摘。「ある程度の大きさがあり、かまないと形が変わらない食べ物には注意が必要」と述べた。

(あなたの健康百科編集部)