2019年11月20日 公開

受動喫煙防止、法規制の強化と経過措置について解説

 健康増進法の一部を改正する法律(改正健康増進法、いわゆる「受動喫煙防止法」)が2018年7月に成立し、2020年4月に全面施行される予定である。この法律は、受動喫煙を防ぐために不特定多数の人が利用する施設での喫煙を禁止するとともに、施設管理者が講じるべき措置などが定めている。また、従来のように努力義務ではなく、海外の国々と同じように罰則規定が設けられていることが大きな特徴である。第78回日本癌学会において、国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計・総合解析研究部部長の片野田耕太氏が報告した法改正の経緯と健康政策を実現するために疫学研究が果たす役割について紹介する。

罰則規定を盛り込んだ受動喫煙防止法が来年4月に全面施行

 法改正について、片野田氏は「2013年9月に、東京オリンピック・パラリンピック2020の開催が決定したことが大きな契機」と解説。これを受けて、2015年4月に「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」が始められ、同氏は研究代表を務めた。同年11月には「喫煙の健康影響に関する検討会」が発足し、同氏は編集責任者として2016年9月に「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書(通称、たばこ白書)」を取りまとめた。たばこ白書では喫煙と疾患の因果関係を4段階(レベル1~4)で評価しており、これらの活動が法改正につながったという。

 たばこ白書が公開された直後の2016年10月には厚生労働省から「受動喫煙防止対策の強化について(たたき台)」が示され、2017年の通常国会(第193回)に健康増進法の改正案が提出される予定であった。たたき台では、官公庁や社会福祉施設、大学などは建物内禁煙、医療機関や小学校・中学校・高校などは敷地内禁煙とし、例外規定は設けていなかった。また、サービス業(飲食店、ホテルなど)、事務所(職場)、ビルなどの共用部分、駅、空港などは原則建物内禁煙(喫煙専用室を設置可)とされていた(表1)。

表1. 改正健康増進法のたたき台(2016年10月)

(厚生労働省公式サイト)

反対派の異論を受け、経過措置(大幅緩和)が盛り込まれる

 しかし、2017年2月に行われた自民党厚生労働部会で反対論が噴出し(「非現実的だ」「五輪のためなら東京だけでやれ」「喫煙の自由を認めろ」)、その後、東京都議会と衆議院の選挙、厚生労働大臣の交代といったさまざまな政治的動きがあり(表2)、反対派議員の問題発言〔「(がん患者は)働かなければいいんだ」「いいかげんにしろ」〕などの騒動を経て、最終的に経過措置などにより大幅な緩和が加えられた法案が2018年の通常国会で成立した。

表2. 改正健康増進法成立の経緯

(片野田耕太氏発表スライドを基に編集部作成)

 具体的な緩和内容についてはに示す通りであり、敷地内禁煙が原則である学校や医療機関などにおいても、一定の条件を満たせば屋外の喫煙所設置が可能となった。また、飲食店は原則屋内禁煙であるが、資本金5,000万円以下で客席面積が100m2以下の既存飲食店については、店頭に明示すれば喫煙は可能である。

図. 成立した改正健康増進法(2018年7月)

(厚生労働省公式サイト)

 緩和措置が設けられた背景として、片野田氏はたばこ事業法を核とした社会構造の問題を指摘した〔①日本たばこ産業(JT)の筆頭株主(3分の1以上、東日本大震災発生前は2分の1以上)が財務大臣である②成立時の厚生労働大臣が改正に慎重な立場の人物であった(元大蔵官僚、「経営規模が小さい事業者に喫煙専用室の設置を求めることは事業継続に影響を与える」と発言)③たばこ税収が年間2兆円に上る④JTの役員は財務省の天下りポストである(現会長は元大蔵官僚)⑤JTの広告宣伝費や研究開発費が莫大な金額に上る(2017年度はそれぞれ244億円、606億円)⑥たばこ農業、小売業などの関連産業の存在ーなど〕。なお、法改正に至る経緯や緩和措置が盛り込まれた背景については、同氏の著書『本当のたばこの話をしよう 毒なのか薬なのか』(日本評論社、2019)で詳述されている。

「社会を変えるための活動」により疫学情報を政策に結び付ける

 最後に片野田氏は、たばこと健康被害に関する国際的な取り組みと、疫学研究(病気の発症原因や予防など)を政策に結び付けるための手法について紹介した。2003年に世界保健機関(WHO)がたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)を採択し、日本も批准している。しかし、FCTCには「各国の実情に応じて」という留保規定が設けられており、わが国のたばこ規制は世界標準から大きく遅れている。同氏は「条約違反ではないが、条約の理念が正しく履行されているとはいえない」と苦言を呈している。

 また、「たばこアトラス」や「世界疾病負担研究(Global Burden of Disease;GBD)」といった研究によりたばこと健康被害に関する疫学情報が報告されているが、これらを政策に結び付ける手法として「アドボカシー(社会を変えるための活動)の発想が重要である」と指摘し、具体例として、日本学術会議や禁煙推進学術ネットワークなどが行っている提言や要望を紹介。さらに、2016年に国立がん研究センターのプレスリリースを巡って同センターとJTが論争を繰り広げた件がTwitterを中心に話題となったことを例に挙げ、「正攻法だけではなく時には社会の関心を得るための情報発信も有効」と結論した。

(あなたの健康百科編集部)