2019年11月25日 公開

「唾液力」アップでインフルエンザ予防を

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 「唾液」という言葉にネガティブな印象を抱く人は多いかもしれない。動物の「よだれ」や、相手の顔や地面に「唾を吐く」映画のシーンを思い浮かべる人もいるだろう。しかし医学の世界では、さまざまな研究により唾液は有害な菌やウイルスから人を守る重要な役割を担っていることが明らかになっている。その「唾液力」を上げることが、冬本番を控え流行が懸念されるインフルエンザなどの感染症に対する有力な武器になるかもしれない。先ごろ開催されたマスコミセミナー(主催:明治)では、神奈川歯科大学副学長・大学院研究科長で環境病理学教授の槻木恵一氏が、これまでの研究結果を基に感染症や全身疾患の予防における唾液の重要性について講演した。

唾液は血液からつくられる

 槻木氏は、唾液を「機能性の高い物質の宝庫」と表現する。唾液を分泌する唾液腺でつくられた10種類以上の成長因子や抗菌物質が含まれているからだ。成長因子とは、細胞の活性化や修復を促す蛋白質の総称で、傷を治すのに活躍するものや美白効果をもたらすもの、肝臓を保護するものなどがある。

 唾液中の有効成分による効果は口の中だけでしか得られないと思われがちだが、同氏によると、唾液腺から分泌される物質は全身をめぐっているという。また、唾液は血液からつくられるため、多くの血液成分が含まれ、それらを調べることで全身の健康状態がかなり把握できる。既に、唾液を使った「虫歯になりやすさ・歯周病の状態」「エイズウイルスへの感染」「ストレス」などの検査が医療の現場で導入されている。

唾液中のIgAが病原体をシャットアウト

 このように、唾液には多くの有効物質が含まれるが、中でも重要なのが免疫グロブリンA(IgA)である。IgAは、細菌やウイルスと結合してそれら病原体の働きを中和してくれる蛋白質「抗体」の1つで、唾液、母乳、涙、鼻汁に含まれる。口は病原体の入り口。つまり、唾液中のIgAは病原体に対する最初の"バリア"となり、われわれを守っている。またIgAは、虫歯の原因となるミュータンス菌や歯周病菌もシャットアウトすることが分かっている。

 当然ながら、この唾液が持つ「唾液力」が弱まると、かぜやインフルエンザなどにかかりやすくなり、逆に高めることができればかかりにくくなる。では、どうすれば唾液力を高めることができるのか。槻木氏によると、「量」と「質」の2つの側面から考える必要があるという。唾液は口腔内(口の中)を洗い流して清潔な状態に保つ自浄作用を担っているため、ある程度の「量」が必要となる。一方、「質」的にはIgAをはじめとする抗菌物質が多く含まれるほど、菌やウイルスなどを防ぐ力が強まると考えられるからだ。

脱水に注意、食品はヨーグルトがお勧め

 槻木氏によると、唾液量とIgA量を減らす要因を避け、IgAを増やすちょっとした工夫で唾液力はアップするという。まず、唾液量を減らしてしまう最も大きな要因は「脱水」である。実は、夏よりもかぜやインフルエンザが流行する冬の方が脱水状態になりやすい。空気が乾燥し、体の水分を失っている自覚がなく水分補給が不足しがちだからだ。唾液量が減少すると口腔内が乾燥し、IgAも十分な働きができなくなる。冬こそこまめな水分摂取が大事だ。ただし、カフェイン入り飲料やアルコールは利尿作用があるため要注意。

 また、冬は寒さによって血流が低下するため、血液からつくられる唾液量も減ってしまう。できるだけ体を冷やさないよう心がけたい。唾液量を増やす食品やサプリメントとして、イソフラボン(大豆など)、ケルセチン(タマネギなど)、コエンザイムQ10、リコピン(トマト)、ビタミンB6・C・D・E、ヨーグルトなどがある。特にOLL1073R-1という乳酸菌で発酵させたヨーグルトには、唾液の「量」だけでなく、インフルエンザウイルスに対抗するIgAを増加させる「質」を高める効果があることが、同氏らのグループが行った研究で明らかにされている。

過度の運動とストレスに注意

 一方、唾液中のIgA量は過度の運動やストレスにより減少する。やはり、現代人の健康維持にとって「適度な運動」と「ストレスフリー」は共通のキーワードのようだ。IgAを増やす食品としては、乳酸菌を含む食品(ヨーグルトなど)やオリゴ糖、食物繊維などが挙げられる。いずれも腸内環境を整える働きを持ち、結果的に唾液中のIgAを増加させる。

 また、食べ方を工夫することでも唾液力はアップする。食べ物をかむ(咀嚼)運動は唾液量とIgA量をともに増加させるため、よくかんで食べるよう心がける。食材を少し大き目に切ったり、歯ごたえのあるものを加えたりするのも効果的だという。

 本格的な冬はこれから。インフルエンザをはじめ、さまざまな感染症がわれわれを待ち受けている。一方で寒中水泳、寒稽古などの模様がニュースをにぎわす時期でもある。確かに、それら冬伝統のハードなトレーニングが心身の鍛錬に効果的なのは疑いようがない。しかし、高齢者や一般女性など、全ての人が実践するのは難しい。そのような人に、特にお勧めなのが「唾液力アップ」。ちょっとした工夫で無理なく体の"バリア"機能を強化できるのだから。

(あなたの健康百科編集部)