2019年11月27日 公開

歯周病菌がアルツハイマー病の原因に?

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 重度の歯周病は認知機能の低下と関係しており、アルツハイマー病(AD)患者の脳内から歯周病の原因菌の一種であるポルフィロモナス・ジンジバリス(PG)菌の成分が検出されたことから、歯周病とADとの関連が世界的に注目を集めている。AD患者の脳内では、アミロイドβ(Aβ)という特殊な蛋白質が蓄積していることが知られる。九州大学などの共同研究グループは、歯周病患者の歯周組織(歯茎)とPG菌を全身に投与したマウスの肝臓でAβが産生されていることを発見したと米医学誌 Journal of Alzheimer's Disease2019; 72: 479-494)に報告した。

歯周病はさまざまな病気と関連している

 高齢化が進む日本では、認知症患者が急増している。中でも、認知症の7割を占めるとされるADには有効な治療法がないため、介護や医療費などの負担が社会問題となっている。

 AD患者の脳内では蓄積したAβが老人斑と呼ばれる染みをつくり、やがて炎症を引き起こして正常な神経細胞が破壊されることで認知機能低下、言語障害などの症状が現れると考えられている。また、喘息やアトピー性皮膚炎など慢性的な全身の炎症が脳内炎症を引き起こし、認知機能低下と関連するとの報告もある。なお、Aβは脳内で産生・蓄積されると考えられているが、そのメカニズムは解明されていない。

 一方、歯周病菌とADの関連については、歯周病は糖尿病や高血圧、関節リウマチなど多くの病気と関連すること、中でもPG菌はADや心臓病の発症に関与することが知られている。

 九州大学の研究グループはこれまで、マウスを用いた実験から①蛋白質を分解する酵素のカテプシンBは、炎症を起こす生理活性物質(サイトカイン)であるインターロイキン(IL)-1βの産生と関連する②PG菌成分をマウスの全身に投与すると、カテプシンBが脳内炎症、Aβの産生・蓄積、学習・記憶機能低下といったADと似た病態を引き起こす−ことを報告している。

 今回、研究グループは「歯周病感染によって生じた全身炎症が、脳内のAβ蓄積に寄与している」との仮説を立て、歯周病患者の歯周組織およびPG菌成分を全身投与したマウスの肝臓を使って解析した。

ADの発症を遅らせる『先制医療』として期待

 ヒト歯周組織を用いた解析では、歯周組織のマクロファージ(不要になった細胞を分解する働きや体を守る働きを持つ免疫細胞)内に老人斑の主な成分であるAβ1-42、Aβ3-42が局在していることが観察された。

 一方、PG菌成分を3週間投与したマウスの解析では、肝臓においてIL-1βを発現したマクロファージでAβ1-42、Aβ3-42の産生が見られた。さらに、マウスの肝臓ではAβとIL-1βの産生に関与するカテプシンBが著しく増えていたことから、PG菌に感染したマウスの肝臓では炎症性マクロファージがAβを産生していることが示唆された。

 また、PG菌感染マクロファージでカテプシンBの働きを妨害すると、IL-1βとAβの産生が抑制され、Aβを分解する能力は改善した。

 これらの結果を踏まえ、研究グループは「歯周病患者の歯茎ではAβが産生されること、慢性的なPG菌感染により炎症を起こしたマウスの肝臓ではマクロファージがAβを産生すること、炎症性マクロファージにおけるAβ産生はカテプシンBが誘発していることを初めて明らかにした。カテプシンBは、歯周病に関連するADの発症および病態進行を遅らせる治療標的となる可能性がある」と結論。ADは発症の20年以上前からAβの蓄積が、15年前から脳の萎縮が、5〜10年前から認知機能低下がそれぞれ始まるとされるため、「ADの発症を遅らせる『先制医療』としての歯科医学的アプローチには大きな意義がある。経口投与が可能なカテプシンB阻害薬の開発に期待したい」と述べている。

(あなたの健康百科編集部)

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