2019年12月02日 公開

貧しさが終末期の話し合いの障害に

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 65歳以上の高齢者が全人口に占める割合が25%を超え、超高齢社会を迎えた日本。医療・介護の現場では、高齢者が人生の終末期にどのような医療・ケアを「受けたい/受けたくない」と考えているのかを理解し、尊重することへの関心が高まっている。また、いざというときに備えて前もって話し合いを持ち希望を伝えておくことは、本人だけでなく家族や友人が安心して暮らす上でも役立つと考えられる。福島県立医科大学と福島県郡山市保健所との共同研究から、そうした終末期の事前会話を促す要因と妨害する要因が示された。詳細は、英医学誌BMJ Open2019; 9: e031681)に発表された。

「縁起が悪い」と敬遠されることも

 高齢化が進む日本では、終末期に自身が希望する医療やケアについて事前に家族や知人、医療・介護関係者と話し合うアドバンス・ケア・プランニング(ACP)、終末期(エンド・オブ・ライフ:EOL)ケアなどの重要性が高まっている。厚生労働省は昨年(2018年)、ACPを身近に感じてもらうために愛称を公募し「人生会議」と決定した。

 しかし、親兄弟など身近な人と死生観や終末期について話し合う習慣が日本に根付いているとは言い難く、「縁起が悪い」と敬遠されることもある。そのため、終末期に向けた事前の話し合いを促進または妨害している要因に関する検討は進んでおらず、終末期に自身が望まない治療が施されたり、痛みの緩和など必要なケアが受けられなかったりするケースや、残された人たちが「もっと何かしてあげられたのでは」と後悔するケースは少なくない。

 そこで共同研究グループは今回、終末期に向けた事前の話し合いを行うかどうかには①加齢とともに本人や周囲の人が病気を発症したり、入院したりと終末期を身近に感じることが多くなるため、年齢が関連する②貧しいと感じている人は将来の見通しを立てにくいため、主観的な経済状況の悪さが関連する③健康な高齢者より健康状態がよくない高齢者の方が必要性を感じるため、主観的な健康状態の低下が関連する-との仮説を立て、話し合いを促進または妨害する要因について検討した。

経済状況や健康状態との関連を検討

 研究では、介護保険のデータベースから2016年11月1日時点で郡山市に在住し、介護を受けていない65歳以上の高齢者7万8,821人を特定。その後、同市を20の地区に分け、各地区の人口や男女比を基にサンプリングして3,000人(男性1,301人、女性1,699人)を登録した。

 2017年1月に人口統計情報(年齢、性、世帯構成、世帯の経済状況)および事前の話し合いの実施状況を尋ねる項目を含むアンケートを送付、回答が得られた1,575人(有効回答率52.5%:男性717人、女性858人)を解析対象とした。

 対象を前期高齢者(65~74歳:909人)と後期高齢者(75歳以上:666人)に分け、世帯構成は独居、カップル(パートナーの年齢65歳以上)、カップル(同64歳以下)、1人以上の息子または娘と同居、その他に区分した。

 主観的な経済状況の程度は5段階(「1:非常に良い」「2:良い」「3:平均的」「4:貧しい」「5:非常に貧しい」)で評価した。主観的な健康状態は4段階(「1:とても良い」「2:良い」「3:悪い」「4:とても悪い」)、主観的な幸福度は11点満点(「1:とても幸せ」~「11:とても不幸」)で評価し、現在/過去の健康上の問題については高血圧、心血管疾患、糖尿病などの既往の有無を聞いた。事前の話し合いの経験については、「あなたは、あなたが望む終末期について家族または親しい友人と話したことがありますか」との問いに「はい/いいえ」で回答してもらった。

本人が望まない選択をしてしまう恐れも

 解析の結果、「事前の話し合いの経験がある」と回答した割合は女性、経済状況が良好、幸福度が高い人で多かった。一方、「事前の話し合いの経験がない」と回答する人の割合は、経済状況が「平均的」の場合に減少し(49.5%)、「貧しい」(58.6%)、「非常に貧しい」(60.6%)場合に増加した。年齢、世帯構成、健康状態、現在/過去の健康上の問題には、話し合いの経験の有無との関連は認められなかった。さらに詳細な解析でも、同様に女性(経験あり+90%)、経済状況の悪さ(同-17%)、幸福度の低さ(同-8%)との関連が確かめられた。

 これらの結果を踏まえ、共同研究グループは「われわれの予想に反し、事前の話し合いを促進する要因は女性であること、妨害する要因は幸福度の低さであること、健康状態の低下は関連しないことが示された。しかし、仮説通りに経済状況の悪さが話し合いの経験の欠如と関連していた点は重要である」と指摘。「経済状況が良好なことは、他人との交流や関係の構築を通じて終末期に関する話し合いを促進する要因になると考えられる。一方で、貧しいと感じている高齢者は家族や周囲に負担、迷惑をかけることを心配し過ぎるあまり心の余裕を失い、事前に希望を伝えることをためらってしまう可能性がある」と考察している。

 その上で、「今回の研究は、事前の話し合いがないまま終末期を迎え本人による意思表示が困難となった場合、家族・友人が参考にすべき情報がなく本人が望まない選択をしてしまう恐れがあるという、より深刻な問題を提起している。医療・介護関係者は、高齢者の主観的な経済状況にも配慮すべきだ」と強調している。

(あなたの健康百科編集部)