2020年01月06日 公開

イップスの解消に光明か

「切り紙」にヒントを得た測定器を開発

北里大学/早稲田大学/科学技術振興機構

 最近、高速カメラなどの機器を用いてゴルフのスイング、野球の投球フォームといったスポーツ運動時の姿勢や筋肉の動きを解析し、アスリートの成績向上につなげる技術が目覚ましく進歩している。そうした中、早稲田大学と北里大学の共同研究グループは、工芸品の「切り紙」にヒントを得た新たなウェアラブル(身に着けて用いる)筋電測定デバイスを開発。野球の投手が投球する際、てのひらの筋肉がどのように動いているかの測定に世界で初めて成功したとNPG Asia Mater2019年12月12日オンライン版)に発表した。

デバイスの装着により動きが妨げられるのが課題だった

 筋線維の電気活動を記録し、筋肉の活動状況や神経疾患の検査に用いられる筋電図。中でも皮膚の表面で測定する表面筋電図は、医学研究やリハビリテーションだけでなく、スポーツ動作の解析などに広く活用されている。

 筋活動の範囲や強さ、タイミングなどのスポーツ動作の確認・解析が簡単にできるため、アスリートのパフォーマンス向上や運動障害克服などに有用とされる。近年は、皮膚に直接貼り付けて表面筋電位を無線測定できるBluetooth型の機器など、ウエアラブルデバイスの開発が盛んに行われている。研究グループも、皮膚に貼るだけで表面筋電位が測定でき、スポーツ運動時に皮膚が伸び縮みしたり汗をかいたりしても破損・剝離しない極薄電極「電子ナノ絆創膏」を開発している。

 しかし、投球フォームやスイング動作の確認であれば腕、太腿にデバイスを装着したままでも行えるが、てのひらや足の裏などはデバイスを装着すると細かい動作が邪魔されてしまう。そのため、従来のデバイスではストレートと変化球を投げる際にてのひらの動きにどんな違いがあるか、スイング時に効果的に力を伝える足指のバランスなどの測定が困難という課題があった。

 そこで研究グループは今回、こうした課題を克服する目的で、電子ナノ絆創膏とBluetooth端末をつなぐ配線(コネクタ)の開発に着手した。

高速カメラとの同期で詳細な解析が可能に

 装着した人の関節動作を妨げず、激しい運動を行っても安定的な電気的接続を可能にする構造として、研究グループは日本の伝統工芸である「切り紙」に着目。

 まず、導電フィルムを切り紙のように立体的に構造変化して伸縮性が発揮できるように加工。その周囲をシリコーンゴムなどの弾力性がある素材で封止することで、ばねの特性と表面の絶縁性を兼ね備えた伸縮配線を作製した(写真)。

写真. 切り紙から着想を得た伸縮配線

(北里大学プレスリリース)

 投手のてのひらに貼った電子ナノ絆創膏と前腕に固定したBluetooth端末をつなぐコネクタとして、この配線を使用することにより、投球時の手のひらの表面筋電位測定に世界で初めて成功。さらに測定した筋電波形に高速カメラで撮影した投球動作の映像を同期させることで、投球動作と筋活動との関係性が詳細に解析できるようになったという。

 また、ストレートとカーブで投球時の筋活動を比較すると、前腕の筋肉の動きには球種による差がほとんどなかったのに対し、てのひらでは力を入れるタイミングに若干の違いがあることが明らかにされた。

 研究グループは「今回開発したデバイスを用いれば、装着者が違和感を覚えることなく実際のスポーツ運動に限りなく近い状態での筋活動の測定が可能である」と結論。「運動中の手指の筋活動が詳細に理解できるようになれば、野球やゴルフ、ダーツなど手指の微妙な力加減が必要とされる競技におけるイップス(正確な投球・送球ができなくなる、短いパットが決められなくなるなどが生じ、精神面だけでなく無意識的な筋活動の乱れも一因とされる)の改善に役立つことも期待できる」と展望している。

(あなたの健康百科編集部)