2020年01月08日 公開

孤独は毒か、孤立は病か

—台湾での検討では孤立が心臓病高齢者の死亡を増やす

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 "社会的孤立(Social isolation)"や"孤独感(Loneliness)"は近年、小児から高齢者まで、幅広い年代の人々の健康状態に強い影響を与える重要な要素と考えられるようになった。孤立や孤独が、抑うつや依存症などの精神疾患と深く関わることは想像に難くないが、認知症や心疾患、さらには早期死亡のリスクを高めるというデータが次々に報告されている。高齢人口が増え続ける先進諸国では、孤独は今や1つの社会問題として対策が急がれている。

心臓病の高齢者では社会的孤立が死亡率を高める

 最近の研究としては、中国・天津医科大学心理学研究所のBin Yu氏らの報告がある。欧米での検討が多いこのテーマについて、同氏らは台湾在住の高齢者で検討。心臓病を持つ65歳以上の1,267人を登録、その後の経過を10年以上追跡調査し、社会的孤立または孤独感の有無と死亡率との関係を調べた。すると、調査期間中に593人が亡くなったが、登録時に社会的孤立が認められた人で死亡率が高かった。これに対し、孤独感と死亡率上昇との関係はなかったという。

 では、"孤立"と"孤独"はどう違うのか。社会的孤立は通常、「未婚である」「一人暮らしだ」「趣味や地域の集まりに参加しない」といった客観的項目で評価される。一方、孤独については各種の質問票が使われ、「独りぼっちだと感じますか」「頼れる人が誰もいないと感じますか」といった質問への回答で判定される。つまり、孤立は客観的状況を、孤独は主観的心理状態を表す概念と考えられている

健康に悪いのは孤立か、孤独か

 孤立や孤独が身体的健康に深刻な影響を及ぼす因子として注目されるようになったのは、実は比較的最近のことである。例えば、イスラエル・ヘブライ大学のSharon Shiovitz-Ezra氏らは2010年の検討で孤独に注目。50歳以上の米国人約7,600人において1996、98、2000年の3回にわたり「この1週間ほとんど独りだと感じますか」との問いで孤独感を尋ね、2004年までの予後を調べた。すると、死亡率は孤独感のない人に比べ、3回とも孤独だと答えた「慢性孤独者」では83%、「一時的孤独者」では56%高かった。

 このテーマに関しては、メタ解析(過去に行われた複数の研究結果を合わせて解析し、より信頼性が高い結果を導く分析方法)も行われている。同じく2010年に発表された米・ブリガムヤング大学のJulianne Holt-Lunstad氏らの研究では、148の論文を分析。より強い「社会的関係性」を持つ人は、それが乏しい人に比べ生存率が50%高いことを明らかにした。孤立と孤独に関しては、この文献で「社会的関係性の構造的評価」と分類されたものが孤立、「機能的評価」が孤独に相当する。そして、構造的評価を行った24件の検討では57%、機能的項目を検討した63件では46%、両者を組み合わせた61件では44%、より強い社会的関係性を持つ人の生存率が上昇していたのである。

 Shiovitz-Ezra氏らの研究では「孤独」のリスクが指摘され、Yu氏らの最近の検討では「孤立」の方が寿命に影響する結果となった。一方、Holt-Lunstad氏らのメタ解析では両方とも生存率に関わるというデータが得られており、この問題には結論が出ていない。ただHolt-Lunstad氏らの研究以降、孤独問題は世界的に重視されるようになり、「孤独(孤立)が高齢者の寿命に及ぼす影響は喫煙に相当する」といった言葉をよく目にするようになった。

孤独・孤立は社会問題なのか

 英国では900万人が孤独に苦しんでいるとのデータがあり、2018年には孤独問題担当大臣が誕生した。少年や高齢者の孤独・孤立は社会全体の問題であり、教育者や医療者、行政が解決に乗り出すべきだとの考え方が広がりつつあるのだ。とはいえ、こうした問題意識に違和感を持つ人もいる。孤独・孤立の定義は当人の生き方、価値観によって異なり、単純に孤独は毒、孤立は病といった決め付けはできないからだ。

 さらに、孤独・孤立は、死亡や心臓病の原因なのか、あるいは相互に関連しているだけなのか。孤独と孤立、本当に問題となるのはどちらなのか。孤独・孤立と、引きこもり、セルフネグレクトなどとの関係・・・解明すべき問題は山積している。超高齢社会の到来によって、心ならずも孤独や孤立を強いられる人が増えている以上、この問題への関心はますます高まりを見せるだろう。

(あなたの健康百科編集部)