2020年01月31日 公開

おいしく楽しく食べて健康長寿を目指す

〜減塩と食育の大切さを知ろう〜

 健康的な食生活を実践するには食に関する教育、すなわち「食育」が重要となる。奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科特任教授の早渕仁美氏は、第42回日本高血圧学会(2019年10月25〜27日)のシンポジウム「人生100年時代に向けた生活習慣の取り組み:子どもから高齢者まで」で「健康長寿は食育から」をテーマに講演。おいしく楽しく食べて健康長寿を目指すには食塩制限(減塩)をはじめとする食育が大切であること、減塩を成功させるためにはうま味を活用するとよいことを説いた。

和食は栄養バランスに優れる一方で食塩が多いのが欠点

 「和食」は健康的な食生活を支える栄養バランスに優れるとされ、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。適量の和食とは、1つのお膳に載るくらいの一汁三菜のおかずとご飯で構成された食事を指す。一食でエネルギーをはじめ、蛋白質や炭水化物がしっかりと摂取でき、食物繊維が多く低脂肪で栄養バランスが整っているのが特徴。しかしながら、食塩が多くカルシウムが少ないという欠点がある。早渕氏は「日本の伝統的な食文化を見直し継承しようという機運が国内外で高まっているが、和食文化の継承には減塩が不可欠である。また、牛乳・乳製品と果物が含まれないことに加え、現状では野菜がやや不足している」と指摘した

 『高血圧治療ガイドライン2019』の生活習慣の修正項目においても、減塩と野菜・果物の積極的摂取を挙げており、今回新たに低脂肪乳製品の積極的摂取が加えられている

食塩0.3%うま味添加液はおいしい上に減塩を可能にする

 厚生労働省の「平成28年国民健康・栄養調査」によると、日本人女性の1,000kcal当たりの食塩摂取量は、どの年代においても男性より多い。早渕氏は「ダイエットの一環でご飯(米)を食べない女性が増えている。和食を食べていてもご飯を食べなければ、蛋白質と脂質の割合が増えてバランスが悪くなる。しかも、食塩量は変わらない。食に関心が高いとされる女性で食塩摂取量が高くなってしまった背景は、こうしたことが影響しているのではないか」と推測した。

 では、減塩を実践するにはどのようにすればよいのであろうか。うま味を生かした調理の工夫がポイントになると考えた同氏らは、低い濃度の食塩水の味にうま味が及ぼす影響と汁物の適正な塩分濃度について検討した。

 対象は、食塩摂取量が異なる全国13都道府県の20〜80歳の男女651人。0.3%、0.6%、0.9%の食塩水と、それぞれの食塩水にうま味物質(0.3%グルタミン酸ナトリウム)を添加した6種類の溶液で官能評価〔人の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)に頼って、ある物の品質や特性を判定する方法〕を実施した。

 その結果、食塩濃度が高いほど塩味が強いと感じ、うま味を添加すると塩味の増強効果が生じた。塩味の増強効果は食塩0.3%の溶液で特に大きく、0.6%ではやや感じられるものの、0.9%では若干弱くなる傾向が見られた。

 おいしさの評価では、いずれの食塩濃度でもうま味を添加した溶液の方が評価は高く、特に食塩0.3%にうま味を添加した溶液ではスコアが倍増し、最もおいしいと評価された。

 なお、食塩0.9%+うま味添加液が一般的な汁物の基準とされているが、このナトリウム量を100とすると、最もおいしく感じられた食塩0.3%+うま味添加液のナトリウム量は約40であった。同氏は「この検討により、うま味を活用すれば60%の減塩が可能であること、食塩量を減らしてもおいしい料理を提供できることが明らかになった」と述べた(Hypertens Res 2020年1月29日オンライン版)。

味わうことの楽しさや感性を育む「食育」が重要

 生涯にわたって健康な生活を送るには、食に関する知識と適切な選択が行える能力の習得が重要であると、食育基本法にも記されている。早渕氏は、小学校で味覚に関する授業を行い、味わって食べる楽しさを学習することで、味の識別能力が向上し食行動に好影響を与えた事例を紹介。「子供のころから味わうことの楽しさや味が分かる感性を育む『食育』を行うことは重要である」と強調した。

 一方、食環境においては家庭で食事をつくる機会が年々減少し、市販の弁当や総菜などの中食で済ませる割合は著しく増加している。農林水産省の推計によると、日本人の食料消費額の約8割を加工品と外食が占めるとされており、自分の力だけで塩分摂取量やバランスなどの食生活を管理することが難しくなってきている。これらを踏まえ、2018年4月に「健康な食事、食環境(スマートミール)」認証制度がスタートした。どこでも誰でも栄養バランスの良い食事が選べる社会を目指したもので、日本高血圧学会をはじめ、生活習慣病や栄養改善に関連する13学会が賛同し、飲食店や事業所からの申請を審査認証しており、認証事業者は300を超えている。スマートミールを掲げる店舗を利用することで、外食時でも健康に配慮した食事を取ることが可能になった。

 最後に同氏は「おいしく楽しく食べて健康長寿を目指すには、①自分の適量を意識②減塩に関する思い込みを払拭③調理の工夫と減塩調味料の活用④よく味わう⑤健康な食事・食環境の整備−が重要である」とし、「これらの実践を促す『食育』が大切である」と訴えた

(あなたの健康百科編集部)